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恒星風による質量放出と大質量星の進化
概要
恒星風は、恒星表面からガスが加速されて流出していく現象です。 恒星風による質量放出は、恒星の進化に非常に重要な影響を及ぼします。 恒星風による質量放出率は、大まかには光度が大きく半径が大きい、または表面温度が非常に高い星で大きくなります。 恒星風は多くの場合、光球の外側 (光学的に薄い領域) で加速が起こり、速度分布は \(\beta\)-lawと呼ばれる
\[v(r) \simeq v_\infty \left( 1 - \frac{R_\ast}{r}\right)^\beta\]の形で近似されることが多くあります。 ここで\(R_\ast\)は恒星の光球の半径を表し、\(v_\infty\)は終端速度と言われ、星から十分遠方での速度を表します。 \(\beta\)はこの速度則の急峻さ (steepness)を表し、\(\beta\)の値が小さいほど急激に終端速度に近づきます。 高温の星の恒星風では\(\beta \sim 0.8\)であり、冷たい恒星の恒星風では\(\beta\)が大きくよりゆっくり加速が起こります。
球対称かつ定常な恒星風では、恒星中心を中心とする球面を単位時間に通過する質量は、中心からの距離によらず一定 (\(=質量放出率 \dot{M}\))となります。 そしてこれと密度分布\(\rho (r)\)と速度分布\(v(r)\)との間には
\[\dot{M} = 4\pi r^2 \rho (r) v(r)\]の関係が成り立ちます。 加速領域の外側では速度が一定\((v(r) \longrightarrow v_\infty)\)となり、密度分布は\(\rho \propto 1/r^2\)となります。
恒星風には、その加速機構の違いによって2, 3のタイプがあります。 太陽風に代表されるコロナ風 (coronal winds)、ガスが受ける輻射の力による高温星風 (hot-star winds)、ダストが受ける輻射の力によるダスト駆動風 (dust driven winds)などです。 コロナ風は、太陽のような後期型の矮星 (late-type dwarfs)の周りにある高温のコロナが静水圧平衡を保てず、ガス圧勾配の効果でガスが流れ出す現象です。 これは質量放出率は小さいですが、高速流となります。 太陽風では、質量放出率は\(\dot{M} \sim 2 \times 10^{-14} M_\odot /\mathrm{yr}\)で、流れの速度は\(\sim 300 \mathrm{km/s}\)程度です。 高温星風の温度は恒星の表面温度と同程度で、速度は数千km/sと高速です。 質量放出率は光度の大きい星ほど大きく、O型主系列星では\(10^{-5} M_\odot / \mathrm{yr}\)以上にもなります。 またAGB星のダスト駆動風による質量放出率は\(10^{-5} - 10^{-4} M_\odot / \mathrm{yr}\)にも達しますが、その流れの速度は小さく\(10 - 30 \mathrm{km/s}\)です。
HR図上では、一般に光度が大きいほど、また表面温度が低い星で質量放出率が大きくなります。 そして恒星風の速度は、高温の星で速くなります。 また同程度の光度でも、Wolf-Rayet星 (輝線が卓越したスペクトルを持ち、主にヘリウムからなる外層をもつ)で質量放出率が大きくなります。 次の図は、HR図上の各点でどの程度の質量放出率となるかを表したものです。 各線に付けられた数字は\(-\log \dot{M} (M_\odot / \mathrm{yr})\)を表し、数字が小さいほど大きな質量放出率に対応します。
恒星風の観測的特徴
詳しくはP-Cygni profileをご覧ください。
参考文献
[1] de Jager et al., 1988, “Mass loss rates in the Hertzsprung-Russell diagram”
[2] Lamers & Cassinelli, “Introduction to Stellar Winds”
[3] Kippenhahn, Weigert & Weiss, “Stellar Structure and Evolution”
[4] 野本憲一, 定金晃三, 佐藤勝彦, “恒星”