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重力波放射の反作用と角運動量放出
ここまでで、重力波放射に伴うエネルギー損失を計算してきました。 そのエネルギー損失を放射の反作用と考え、そこからさらに角運動量の損失を議論しましょう。
重力波放射の反作用
運動する物体が重力波を放射することで、その物体のエネルギーが失われます。 それはまるで、物体に抵抗力が働いたことで、物体の運動が妨げられたと考えることもできます。 これを放射の反作用 (radiation reaction)とし、そしてこの抵抗力を\(\mathbf{F}^\mathrm{RR}\)のように書くことにします。 すると(抵抗力がする仕事)=(重力波放射によるエネルギー放出)より
\[\int \mathbf{F}^\mathrm{RR} \cdot \mathbf{v} dt = -\frac{G}{5c^5} \int \dddot{\mathscr{D}}_{k \ell} \dddot{\mathscr{D}}^{k \ell} dt \tag{1}\]のように考えることができます。 ここで積分範囲は、物体の運動の数周期や重力波の数周期などが考えられます。 (1)式の積分において、部分積分を行うと
\[\int \mathbf{F}^\mathrm{RR} \cdot \mathbf{v} dt = -\frac{G}{5c^5} \left( \left[ \ddot{\mathscr{D}}_{k \ell} \dddot{\mathscr{D}}^{k \ell} \right] - \int \ddot{\mathscr{D}}_{k \ell} \ddddot{\mathscr{D}}^{k \ell} dt \right) \tag{2}\]のように変形できます。 積分の範囲として、物体の運動の数周期とすると、\([\cdots ] = 0\)とすることができるため
\[\int \mathbf{F}^\mathrm{RR} \cdot \mathbf{v} dt = \frac{G}{5c^5} \int \ddot{\mathscr{D}}_{k \ell} \ddddot{\mathscr{D}}^{k \ell} dt = - \frac{G}{5c^5} \int \dot{\mathscr{D}}_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} dt \tag{3}\]のようになります。 最後の\(\dddot{\ddot{ \quad }}\)は、時間の5階微分を表します。
Markdownで五つのドットを横に並べる方法がわかりませんでした...
積分部分において
\[\dot{\mathscr{D}}_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} = \left( \dot{D}_{k \ell} - \frac{1}{3} \delta_{k \ell} D \right) \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} = \dot{D}_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} - \frac{1}{3} \underbrace{\delta_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell}}_{トレースフリーより0} D = \dot{D}_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} \tag{4}\]のように変形できるため
\[\int \mathbf{F}^\mathrm{RR} \cdot \mathbf{v} dt = - \frac{G}{5c^5} \int \dot{D}_{k \ell} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} dt \tag{5}\]となります。 ここで、簡単のため質点系を考えることにしましょう。 すると\(D_{k \ell} = m x_k x_\ell\)より、その時間微分は\(\dot{D}_{k \ell} = m (v_k x_\ell + x_k v_\ell)\)となります。 以上から
\[\int F^\mathrm{RR, \ell} v_\ell dt = - \frac{G}{5c^5} \int m (v_k x_\ell + x_k v_\ell) \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} dt = - \frac{2 G}{5c^5} \int m \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} x_k v_\ell dt \tag{6}\]と計算できます。 左辺と右辺を見比べることで
\[F^\mathrm{RR, \ell} = - \frac{2G}{5c^5} m x_k \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} \tag{7}\]のように、重力波の放射による反作用力を得ることができます。 さらにこの反作用をポテンシャルで表すことにしましょう。 すなわち\(\mathbf{F}^\mathrm{RR} = - \nabla \Phi^\mathrm{RR}\)のように書くことにすると
\[\Phi^\mathrm{RR} = \frac{G}{5c^5} x_k x_\ell \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}^{k \ell} \tag{8}\]となります。 この反作用ポテンシャルをニュートン重力ポテンシャルに加えることで、重力波によるエネルギー損失を考慮した運動を計算することができます。
重力波放射による角運動量放出
先程求めた\(F^\mathrm{RR, \ell}\)から、系の角運動量\(\mathbf{J}\)の時間変化を求めてみましょう。 \(\frac{d \mathbf{J}}{dt} = \mathbf{x} \times \mathbf{F}^\mathrm{RR}\)から、\(i\)成分のみを考えると
\[\frac{dJ_i}{dt} = \epsilon_{ijk} x^j F^{\mathrm{RR}, k} = - \frac{2G}{5c^5} m \epsilon_{ijk} x^j x^a \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}_a^k \tag{9}\]両辺を重力波の数周期を含む程度の時間で積分し、その周期で割ることで時間平均操作をすれば
\[\left< \frac{d J_i}{dt} \right> = - \frac{2G}{5c^5} \epsilon_{ijk} \frac{1}{T} \int \underbrace{m x^j x^a}_{=D^{ja}} \dddot{\ddot{\mathscr{D}}}_a^k dt \underbrace{= \cdots = }_{部分積分を複数回実行} - \frac{2G}{5c^5} \epsilon_{ijk} \left< \ddot{D}^{ja} \dddot{\mathscr{D}}_a^k \right> \tag{10}\]を得ます。 さらに
\[\epsilon_{ijk} \ddot{D}^{ja} \dddot{\mathscr{D}}_a^k = \epsilon_{ijk} \ddot{\mathscr{D}}^{ia} \dddot{\mathscr{D}}_a^k + \frac{1}{3} \epsilon_{ijk} \delta^{ja} \ddot{D} \dddot{\mathscr{D}}_a^k = \epsilon_{ijk} \ddot{\mathscr{D}}^{ia} \dddot{\mathscr{D}}_a^k + \frac{1}{3} \epsilon_{ijk} \ddot{D} \dddot{\mathscr{D}}^{jk} \tag{12}\]です。 第二項において、例えば\(i=x\)の場合を考えましょう。 すると
\[\epsilon_{xjk} \dddot{\mathscr{D}}^{jk} = \dddot{\mathscr{D}}^{yz} - \underbrace{\dddot{\mathscr{D}}^{zy}}_{=\dddot{\mathscr{D}}^{yz}} = 0 \tag{13}\]のようになるため、結局
\[\left< \frac{d J_i}{dt} \right> = -\frac{2G}{5c^5} \epsilon_{ijk} \left< \ddot{\mathscr{D}}^{ja} \dddot{\mathscr{D}}_a^k \right> \tag{14}\]のように整理されます。
参考文献
[1] Maggiore, “Gravitational Waves”
[2] 平松尚志, “宇宙論的起源の背景重力波による余剰次元の探求”