白色矮星の振動
概要
白色矮星の中には、周期が\(100\sim 1000\)秒の変光を示すものがあります。 それらは白色矮星のg-mode振動により、主に表面温度が変化することで起こるものです。 白色矮星の自由落下時間は数秒であるため、それらの振動は動径方向モードやp-modeではありえません。 単周期のものはまれで、ほとんどの場合には同時にいくつものモードの振動が存在し、ビートにより振幅が一定ではありません。 振幅は0.01magから0.3magまでと、多様に存在します。
分類
振動を示す白色矮星は、3つのグループに分けられます。
- ZZ Ceti variables (DAV): 振動するDA型白色矮星で、\(T_\mathrm{eff} \sim 10^4 \mathrm{K}\)と低いもの
- Variable DB stars (DBV): 振動するDB型白色矮星で、\(T_\mathrm{eff} \sim 3 \times 10^4 \mathrm{K}\)と中程度のもの
- Variable PG1159 stars (DOV): 振動する高温の白色矮星で、\(T_\mathrm{eff} \gtrsim 10^5 \mathrm{K}\)のもの。
物理量の抽出
白色矮星の振動の観測から正確な周期を得ることで、白色矮星の質量・水素の層の厚さ・自転周期などの情報を引き出すことができます。 また周期の時間変化が検出できれば、進化の速さを評価することも可能です。 g-mode振動に対し、動径方向の波数\(k_r\)は、特に\(k_r \gg k_h\)のとき
\[k_r \simeq \frac{N}{r\sigma} \sqrt{\ell (\ell + 1)} \tag{1}\]のように表されます。 ここで\(k_h \equiv \sqrt{\frac{\ell (\ell + 1)}{r}}\)は水平方向の波数、\(N\)はBrunt-Väisälä振動数、そして\(\sigma\)は角振動数を表します。 大局的振動の振動数は、量子化条件
\[n\pi = \int_{r_1}^{r_2} k_r dr = \frac{\sqrt{\ell (\ell + 1)}}{\sigma} \int_{r_1}^{r_2} \frac{N}{r} dr \tag{2}\]によって求まります。 ここで\(n\)は整数、\(r_1, r_2\)は\(k_r\)が実数となる(伝搬可能な)層の境界の中心からの距離を表します。 したがって、白色矮星の振動周期は
\[\Pi = \frac{2\pi}{\sigma} \propto \frac{n}{\sqrt{\ell (\ell + 1)}} \left( \int_{r_1}^{r_2} \frac{N}{r} dr\right)^{-1} \tag{3}\]のように表されます。
この辺の導出もしっかり解説する予定です。しかしいつになることやら...
水素は軽く、不透明度が大きいため、比較的広がった構造を持ちます。 そのため表面の水素の層の質量が大きいと、振動が伝搬可能な層の厚さ \(r_2 - r_1 (\ll r)\)が大きいため、比較的周期が短くなります。 この性質から、観測される最も短い周期をモデルと比較することにより、水素層に含まれる質量を評価することができます。 またBrunt-Väisälä振動数は温度が下がるとその値が減少するため、ある振動モードの周期は、白色矮星の冷却が進むに連れて長くなっていきます。 それを計測することで、冷却率の観測的な評価をすることができます。 期待される周期変化率は、1年で\(10^{-7} \mathrm{s}\)程度のわずかな量です。 そのため、これを観測的に決定するには、何年にも渡る観測が必要となります。 現在のところ得られている結果は、理論モデルの値と同程度であると知られています。
次の図の上パネルは、振動する(DB型)白色矮星の光度曲線の例です。
このような変光は、複数の固有振動の重ね合わせ \(\sum_j A_j \exp (2\pi i \nu_j t)\)として表されます。 この光度曲線をフーリエ変換することにより、下パネルのようなパワースペクトルが得られ、振動数を知ることができます。
参考文献
[1] Corsico et al., 2022, “Pulsating hydrogen-deficient white dwarfs and pre-white dwarfs observed with TESS III. Asteroseismology of the DBV star GD 358”
[2] Shapiro & Teukolsky, “Black Holes, White Dwarfs, and Neutron Stars”