Table of contents
ファラデー回転 (Faraday rotation)
プラズマに外場として磁場
円偏光電磁波の分散関係式
任意の電磁波の電場ベクトルは、以下のように左回り・右回りの円偏光に分解して記述することができるのでした。
ここで
以下では磁場に沿った方向に進む左回り円偏光電磁波が、プラズマに入射し伝搬していく場合を考えましょう。
この左回り円偏光電磁波がプラズマ中を伝搬すると、それまで静止していたプラズマ中の電子に運動が生じます。 ここでは、電磁波により引き起こされる電子の運動の速度は光速度より十分遅いとして、非相対論の範疇で考えていきましょう。 これより、電磁波の磁場によるローレンツ力は無視されます。 さらに外部磁場強度は、電磁波の磁場強度より圧倒的に強いものとします。 電磁波は横波より、電磁波の波数ベクトル
プラズマに電磁波が入社したときの電子の速度と電流密度をそれぞれ
のように書けます。 すると(4), (5), (6)式より
を得ます。 この両辺と
と計算されます。途中、
のようになります。 すると(6), (8), (9)式、そして円偏光ベクトルについて成り立つ関係式
と求まります。 一つのフーリエモードを考えると、プラズマ中でのマクスウェル方程式は
のようになるのでした。 これらより
と変形できるので、(11)式を代入して整理しましょう。
途中、電子のプラズマ振動数
が求まりました。 真空中であれば
同様に、右回りの円偏光電磁波の場合、電子の速度は
のようになります。 (10), (19)式から、右回り・左回りに関係なく、電子は電磁波の電場ベクトルの回転方向と同じ方向に回転することがわかります。 回転の速度は右回りのときの方が、左回り円偏光のときより遅いこともわかります。 これは次のように解釈できます。 電磁波が入る前、すなわち外部磁場
右回り円偏光電磁波の場合の計算をさらに進め、分散関係式を導出すると
のようになります。
位相差の計算
これまでの議論で求まった分散関係式を変形し、波数および位相速度を求めてみましょう。 左回り・右回り円偏光電磁波の波数をそれぞれ
と書くことができます。 サイクロトロン振動数とプラズマ振動数の典型的な値より、電磁波の振動数においては
この結果から
ここまでの議論から、電磁波が磁場に沿った方向に距離
を計算することで求まります。
ファラデー回転 (Faraday rotation)
ここまでの結果を用いると、直線偏光電磁波に対して面白い現象が起こります。 簡単のため、二つの偏光方向に対して
のように表記できます。 これは下図のように左回りと右回りに回転するベクトルを、全く同位相で足し合わせることで上下に振動する矢印を作ることに対応します。
さて、先程までの議論で、もし磁場を伴うプラズマ中を左回り・右回りの円偏光電磁波が伝搬するとき、(24)式に従う位相差が発生するのでした。 すなわち次の図のように、左回り円偏光と右回り円偏光の伝搬後の位相差
図より、
この偏光方向の回転現象を、ファラデー回転 (Faraday rotation)と呼びます。 そしてファラデー回転を特徴づける量として、次のように回転量度 (Rotation Measure: RM)と呼ばれるものを定義します。
(26)式より、左辺はラジアンで無次元、右辺には
最後の係数はもう少し詳細に計算すると0.812程度になります。
例えば、観測から
宇宙に一様な磁場は存在するか?
宇宙スケールの磁場
宇宙全体を貫く一様な磁場(宇宙磁場)は存在するでしょうか? もしそれが存在したとして、それはどの程度の強度だろうか、という問題を考えましょう。 これは古くはVallee, 1990などで考えられてきました。 この論文では、銀河団に所属していない
しかし、この論文の調査結果ではそのような兆候は見られませんでした。 もし一様な宇宙磁場が存在したとしても、それによるRMは
と求まります。 大雑把な見積もりですが、もし宇宙に一様な磁場が存在しても、その大きさは
余談: 各天体に付随した磁場や手前にある天体の効果はどうやって取り除く?
ここまでは私たち観測者と天体の間に一様磁場しかない、理想的な状態で話を進めてきました。 しかし実際の宇宙空間には、観測ターゲットである天体の手前に別の天体が存在し、それによる影響を受けます。 さらには、そのターゲット天体自身も磁場を持つことが考えられるため、各天体固有のRM成分を持つはずです。 ではどのようにこれを除去し、宇宙一様磁場の情報を引き出せば良いのでしょうか。
それには各天体で求められたRMの相関を見ます。 天体の持つ磁場や観測ターゲット天体の固有磁場は無相関なはずです。 よってもし一様磁場がなければ、観測した天体に関してRMを平均すると0に近い値になります。 逆に一様磁場が存在する場合、ある方向に着目したときに、距離に比例してRMが大きくなっていくような振る舞いが見えることになります。
大規模構造スケールの磁場
先程の例は
このことから、その高密度領域には1Mpc/hにわたってコヒーレントな磁場が存在し、その大きさが30nGであると結論づけました。 ファラデー回転を用いた観測から、宇宙大規模構造に大局的な磁場が存在することが示唆されたのです。
参考文献
[1] Vallee, 1990, “Detecting the Largest Magnets: The Universe and the Cluster of Galaxies”
[2] Lee et al., 2009, “Detection of Large-Scale Cosmic Magnetic Fields”
[3] 天文学辞典, ファラデー回転