Table of contents
  1. ロッシュローブ
    1. ケプラーの法則と軌道半径の見積もり
    2. ロッシュポテンシャル
    3. 連星を結ぶ直線上にあるラグランジュ点
    4. テスト粒子の運動
  2. 参考文献

ロッシュローブ

2つの恒星の質量がM1,M2であるような連星系を考え、その連星系の周りの流体の運動を調べましょう。この問題をロッシュ(Roche)問題と呼びます。以下での流体の運動を、お互いに軌道運動をしている2つの恒星が作るポテンシャル中のテスト粒子の運動と同等であるとして調べます。すなわち制限3体問題として扱い、テスト粒子は連星の軌道運動には影響を与えないと仮定します。2つの恒星はお互いに円運動をしているものとし、ポテンシャル計算にあたっては恒星は質点として扱います。

ケプラーの法則と軌道半径の見積もり

軌道半径a、公転周期Πの連星系では、ケプラーの法則が成り立ちます。

(1)4π2a3=G(M1+M2)Π2

ここで2つの質量比をqM2/M1とおくと

a3=GM1(1+q)4π2Π2=c28π22GMc2M1M(1+q)Π238×1025M1M(1+q)Π2

Π1yr=π×107sで規格化して表現した場合

a3=c28π22GMc2M1M(1+q)(Π1[yr])2π2×1014278×1039M1M(1+q)(Π1yr)2(2) a1.5×1013(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1yr)2/3[cm]

となります。1AU1.5×1013cmなので、M1=M,Π=1yrのときには、連星の距離は1AUであるとわかります。
コンパクト連星では軌道周期が数日、数時間、数分といった場合があります。その場合にはそれぞれ

(3)a1.5×1013(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1day)2/3(1365)2/33.0×1011(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1day)2/3 (4)a3.0×1011(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1hour)2/3(124)2/33.6×1010(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1hour)2/3 (5)a3.6×1011(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1min)2/3(160)2/32.3×1010(M1M)1/3(1+q)1/3(Π1min)2/3

のようになります。軌道周期が数分の場合には、その軌道半径は太陽半径R6.96×1010cm程度であることもわかります。

ロッシュポテンシャル

連星系の質量中心(重心)を座標原点とし、その原点の周りを公転周期Πで回転する座標系に乗って考えましょう。連星系の重力場中における、質量m=1のテスト粒子の運動方程式は

(6)dvdt=ΦR2Ω×v

のようになります。ここで

(7)Ω=GM1(1+q)a3

は連星の公転振動数Ω=2π/Π、そして

(8)ΦR=GM1|rr1|GM2|rr1|12(Ω×r)2

はこの系でのポテンシャルです。回転系で考えているため、(6)式にはコリオリ力、(8)式には遠心力によるポテンシャルが出現しています。r1,r2はそれぞれ原点から測った連星を構成する恒星の位置ベクトルです。以下ではΩは連星の軌道面と垂直な方向に向いていると考えます。
軌道面に垂直な方向をz方向と定めます。さらに軌道面内において2つの恒星を結ぶ直線をx軸とし、それに垂直にy軸を取ります。まずは、この座標系における連星の位置を求めましょう。ここまでの座標の取り方より、重心は

(9)M1x1+M2x2M1+M2=αx1+βx2=0  x1=βαx2

ここで

(10)α11+q,βq1+q

としました。連星系はお互いに円運動をしており、その軌道半径はaとしたので

(11)x1x2=a  x1+αβx1=α+ββx1=x1β=a  x1=βa

とわかります。同様に

(12)βαx2x2=α+βαx2=x2α=a  x2=αa

となります。ここでi方向の単位ベクトルをeiとするとr=xex+yey+zez、そしてr1=x1ex,r2=x2exのように書かれます。さらに問題設定からΩ=Ωezより、(8)式は

ΦR=GM1(xβa)2+y2+z2GM2(x+αa)2+y2+z212(Ω2x2+Ω2y2)

座標系を軌道半径で規格化し、X=x/a,Y=y/a,Z=z/aとすると

ΦR=G(M1+M2)a=a2Ω2(α(Xβ)2+Y2+Z2+β(X+α)2+Y2+Z2)12Ω2a2(X2+Y2)(13)=a2Ω2Ψeff

のように書かれます。途中

(14)Ψeff{α(Xβ)2+Y2+Z2+β(X+α)2+Y2+Z2+12(X2+Y2)}

のように、規格化された有効ポテンシャルを定義しました。有効ポテンシャルを可視化すると以下のようになります。一つ目はq=0.5の場合です。

次にq0.25の場合です。2つの恒星質量の偏りが大きくなり、それに伴ってポテンシャルの形状も変化しています。

連星を結ぶ直線上にあるラグランジュ点

この連星系におけるラグランジュ点(ポテンシャルの勾配が0となる点)を、X軸上の場合に求めてみましょう。(14)式においてY=Z=0として、Xで微分すると

(15)ΨeffX=α(Xβ)2+β(X+α)2X

これが0となるところが極値です。しかしこの式は(パッと見た感じでは)解析的に解くことは難しそうです。よってf(X)ΨeffXとして、f(X=0)となる解を探します。ニュートン法などを用いる場合、f(X)をもう一度微分する必要があります。すると

(16)fX=2α(Xβ)3+2β(X+α)3

となります。(15), (16)式を用いてニュートン法で解を探すと、以下のようになります。

q=0.5  L10.24,L21.25,L31.14 q=0.25  L10.44,L21.27,L31.08

テスト粒子の運動

(6)式から、テスト粒子の運動を計算してみましょう。簡単のため、以下ではxy平面内の軌道計算のみを行うものとします。計算を行いやすいように、時間をT=t1/Ω、長さ(座標)をX=xaのように規格化すると

a1/Ω2d2XdT2=1aΦR2Ωa1/Ωez×dXdt  d2XdT2=ΦRa2Ω2+2(dYdtdXdt)=Ψeff+2(dYdtdXdt)

のようになります。u1=X,u2=Y,u3=dXdT,u4=dYdTとおくと、テスト粒子の位置・速度の時間発展は

ddT(u1u2u3u4)=(u3u4ΨeffX+2u4ΨeffY2u3)

のような連立微分方程式となります。これをルンゲ・クッタ法などを用いて時間積分すれば、数値的にテスト粒子の運動を解くことができます。 下図はq=0.5X,Y,vX,vYの初期値をそれぞれ0.24,0.0,0.01,0.0のように、ラグランジュ点L1からX軸負の方向に初速を与えた場合の軌道計算例です。

この場合、x2=2/3に連星系を構成する星がいます。その星に向かって落下しつつも、回転座標系に乗っていることでコリオリ力が働き、複雑な軌道を描きます。
実際には、M1の質量を持つ恒星1が主系列星から進化していくと、赤色巨星などのように外層が膨張するフェーズへと移行します。このとき、ロッシュローブから溢れ出したガスがL1からM2の質量を持つ恒星2へと降り注ぎます。このとき先の動画でも示したように、流体は直接恒星2に落ちるのではなく、角運動量を持つために恒星の周囲を軌道運動します。このようにして恒星2の周囲に降着円盤が形成されます。恒星2が白色矮星や中性子星であれば降着円盤は高温になり、X線などの高エネルギー波長で明るく輝きます。(3), (4), (5)式のように連星がかなり近接している場合には、その降着円盤のフラックスは連星軌道周期に合わせて数分-数日周期で変動します。

参考文献

  • 柴田一成, 福江純, 松元亮治, 嶺重慎, “活動する宇宙”
  • 小山勝二, 嶺重慎, “ブラックホールと高エネルギー現象”


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