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恒星の重力エネルギー
星の重力エネルギーは、星を構成しているガス全てを無限遠まで運ぶのに必要なエネルギーに負の符号をつけたものとして評価することができます。 これはエネルギーが必要なだけ低いエネルギー状態にあると考えられることから負の値とします。 質量\(M_r\)を持つ半径\(r\)の球を取り囲む、微小質量\(dM_r\)の球殻を無限遠まで運ぶのに必要なエネルギーを\(dW\)としましょう。 中心からの距離が\(r' (>r)\)での重力\(\frac{GM_r dM_r}{r'^2}\)に逆らって無限遠まで持ち去るので
\[dW = GM_r dM_r \int_r^\infty \frac{dr'}{r'^2} = \frac{GM_r}{r} dM_r \tag{1.3.1}\]となります。 これを\(dM_r\)について積分することで、星全体のガスを無限遠に運ぶのに必要なエネルギー\(W\)が求まります。 星の重力エネルギー\(E_\mathrm{g}\)は\(-W\)より
\[E_\mathrm{g} = - \int_0^M \frac{GM_r}{r} dM_r \tag{1.3.2}\]のように表現されます。 この積分を実行するには\(M_r\)と\(r\)の関係、すなわち星の内部構造を知る必要があります。 しかし近似的に
\[E_\mathrm{g} = -q \frac{GM^2}{R} \tag{1.3.3}\]のように書くと、\(q\)は1のオーダーの量となることが知られています。 (1.3.2)式は部分積分を行うとさらに変形ができます。
\[\begin{align} E_\mathrm{g} &= -\frac{1}{2} \left[ \frac{GM_r^2}{r}\right]_{M_r = 0}^{M_r = M} - \frac{1}{2} \int_0^M \frac{GM_r^2}{r^2} \frac{dr}{dM_r} dM_r \notag \\ &= -\frac{GM^2}{2R} - \frac{1}{2} \int_0^R \frac{GM_r^2}{r^2} dr = -\frac{GM^2}{2R} - \frac{1}{2} \int_0^R \frac{d\psi}{dr} M_r dr \notag \\ &= -\frac{GM^2}{2R} - \frac{1}{2} [\psi M_r]_0^R + \frac{1}{2} \int_0^R \psi \frac{dM_r}{dr} dr \tag{1.3.4} \end{align}\]途中、(1.1.8)式を用いました。 さらに重力ポテンシャル\(\psi\)は(1.1.8)式を積分することで
\[\psi(r) = \int^r \frac{GM_r}{r'^2} dr' = -\frac{GM_r}{r} + \int^r \frac{G}{r'} \frac{dM_{r'}}{dr'} dr' + C = -\frac{GM_r}{r} + 4\pi G \int^r \rho r' dr' + C\]を得ます。 途中、(1.1.11)式を用いました。 積分定数\(C\)は、恒星外部\((r>R)\)で\(\psi(r) = - \frac{GM}{r}\)となるように選ぶと
\[\psi (r) = - \frac{GM_r}{r} - 4\pi G \int_r^R \rho (r') r' dr' \tag{1.3.5}\]のように表されます。 第一項は質点系でも見られるものですが、第二項はガス球を考えた場合に出てくる特有の項です。 この式から\(\psi (R) = -\frac{GM}{R}\)であることを(1.3.4)式に用いると、最終的に
\[E_\mathrm{g} = \frac{1}{2} \int_0^M \psi dM_r \tag{1.3.6}\]を得ます。
ビリアル定理
静水圧平衡の式(1.2.1)の両辺に\(4\pi r^3\)をかけたものを、恒星全体で積分しましょう。
\[\int_0^M 4\pi r^3 \frac{dP}{dM_r} dM_r = - \int_0^M \frac{GM_r}{r} dM_r \underbrace{=}_{(1.3.2)} E_\mathrm{g} \tag{1.4.1}\]となります。 左辺を部分積分しましょう。 表面で圧力\(P = 0\)、中心で\(r = 0\)であること、そして(1.1.15)式を用いると
\[E_\mathrm{g} = [4\pi r^3 P]_{M_r = 0}^{M_r = M} - 3 \int_0^M 4\pi r^2 P \frac{dr}{dM_r} dM_r = - 3 \int_0^M \frac{P}{\rho} dM_r \tag{1.4.2}\]を得ます。
理想気体では、\(P/\rho = (C_P - C_V) T = (\gamma - 1) e_i\)という関係があります。 ここで\(C_P, C_V\)はそれぞれ定圧比熱と定積比熱を表し、\(\gamma = C_P / C_V\)は比熱比です。 また\(e_i\)は単位質量あたりの内部エネルギーを表します。 理想気体かどうかに関わらず、圧力は運動量流束で表されるため
と書けます。 途中の\(n\)はガス粒子密度、\(m\)はガス粒子一つの質量、\(v\)はガス粒子の熱運動速度を表します。 先程記述したように、\(P/\rho\)は\(e_i\)に比例する量であるため、一般に
\[\frac{P}{\rho} = (\gamma - 1) e_\mathrm{i} \tag{1.4.3}\]と書くことができます。 ただし、(1.4.3)式の\(\gamma\)は一般には比熱比ではありません。 (1.4.3)式を用いると、(1.4.2)式は
\[E_\mathrm{g} = -3 \int_0^M (\gamma - 1) e_\mathrm{i} dM_r = -3 (\gamma - 1) E_\mathrm{i}\]と表すことができます。 ここで、最後の\(\gamma\)は恒星の中での平均的な値を表すものとし、\(E_\mathrm{i}\)は恒星全体の内部エネルギーを表します。 この式は、恒星の静水圧平衡状態におけるビリアル定理
\[E_\mathrm{g} = -3(\gamma - 1) E_\mathrm{i} \tag{1.4.4}\]を与えます。 この定理は、恒星全体の重力エネルギーと内部エネルギーとの関係を表しています。 恒星の全エネルギー\(E_\mathrm{tot}\)を計算すると
\[E_\mathrm{tot} = E_\mathrm{g} + E_\mathrm{i} = - (3\gamma - 4) E_\mathrm{i} = \frac{3\gamma - 4}{3(\gamma - 1)}E_\mathrm{g} \quad \left( = -\frac{3\gamma - 4}{3(\gamma - 1)} q \frac{GM^2}{R}\right) \tag{1.4.5}\]のようになります。 この式は\(\gamma > 4/3\)のときのみ\(E_\mathrm{tot} < 0\)となり、恒星のガスが束縛された状態にあることを表しています。 単原子分子からなる理想気体では\(\gamma = 5/3\)なので、この条件を満たしていることになります。
光子ガスの場合、\(P_\mathrm{rad} = \frac{1}{3}a T^4 = \frac{1}{3} U_\mathrm{rad}\)と表されます。 ここで\(a\)は輻射定数、\(U_\mathrm{rad}\)は輻射のエネルギー密度です。 ここから、これは\(\gamma = 4/3\)に相当します。 これは、星全体で輻射圧がガス圧に比べて優勢になってくると、\(E_\mathrm{tot}=0\)の状態、すなわち束縛されない状態に近づいて行くことを表しています。