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主系列星とその進化
ZAMS (Zero-Age Main-Sequence)
前主系列段階での重力収縮で中心温度が1千万度まで上昇すると、水素からヘリウムが合成される核融合反応によるエネルギー生成率が、星の表面からのエネルギー放出率と釣り合います。 このエネルギーの釣り合いにより重力収縮が止まり、恒星は主系列星段階に入ります。 この段階はZAMS (Zero-Age Main-Sequence)と呼ばれます。 しかし質量が\(\sim 0.08 M_\odot\)よりも小さな星は、核融合によるエネルギー発生率が十分大きくないため、重力収縮を止めるまでに至ることはありません。 このような恒星は、褐色矮星 (brown dwarf)と呼ばれます。
主系列星はHR図上、左上から右下に伸びる帯(主系列)上に存在します。 連星系を恒星する主系列星に対しては質量が求められるため、質量と半径、および質量と光度の関係を求めることができます。 下図はそのようにして得られる質量-光度関係を表したものです。
主系列星の光度は質量により大きく変化しますが、半径はあまり変わりません。 それら関係は
\[L \propto M^{\sim 3 \sim 4}, \qquad R \propto M^{\sim 0.5 \sim 0.8}\]のように表されます。 この関係を用いると、平均密度は\(\bar{\rho} \propto M / R^3 \propto M^{-0.5 \sim -1.4}\)のように表現され、質量の大きい主系列星ほど平均密度が小さいことがわかります。
主系列星の寿命は\(\sim M/L\)に比例します。 先程の関係から、質量の大きい主系列星ほど短いことがわかります。 この性質は、星団の年齢決定に利用されます。 次の図はプレアデス星団・ヒアデス星団・NGC188星団のHR図を並べたものです。
最も明るい主系列星の明るさがこの順に暗くなっており、右側の星団ほど昔に生まれた星団であることがわかります。
比較的小質量の主系列星は、単に矮星(dwarfs)と呼ばれることもあります。 また、種族(population)IIの主系列星は準矮星(sub dwarfs)と呼ばれます。 この名前は、HR図上で準元素が少ない場合の主系列が種族Iの主系列の下に位置することから来ています。 この関係は、星団の主系列を基準のものと合わせることにより、星団までの距離を評価する際に考慮される必要があります。 種族IIの星は、私たちの銀河の形成初期に形成された古い星で、重元素含有量が太陽に比べて少ないとされます。 一方、種族Iの星は銀河内の星間ガスの重元素含有量が太陽程度になった後に生まれた星で、銀河円盤内に存在します。
水素からヘリウムが合成される核融合には、主に小質量星 (\(M \lesssim 1 M_\odot\))で起こるpp-chain反応と、大・中質量星星で起こるCNOサイクルがあります。 pp-chain反応によるエネルギー発生率の温度依存性は4乗程度で比較的弱いため、中心部の比較的広がった領域でエネルギーの発生が起こっていると考えられています。 それに対して、CNOサイクルでヘリウムの合成が起こる場合、エネルギー発生率の温度依存性は15乗程度と強いため、エネルギーの発生は中心付近の狭い領域に限られています。 この違いは、中心付近の構造に現れてきます。 大・中質量星の中心領域は対流が起き、その対流領域で元素組成が均一になるように混合が起こります。
小質量星では中心部が輻射平衡でガスの運動がないのに対し、外層では対流が起きています。 これは、ガスの不透明度が温度が下がるにつれて大きくなり、輻射によるエネルギー輸送効率が下がるためです。 太陽の対流外層の暑さは、半径の30%程度とされており、質量にして2%程度です。 その厚さは質量が小さくなるにつれて増加し、\(0.2 M_\odot\)程度よりも小質量の恒星では、星全体が対流平衡で常に全領域で混合が起きていると考えられています。 しかしながら、このような小質量星の寿命は非常に長いため、私たちの住む天の川銀河ができたすぐ後に形成されたとしても、元素組成はさほど変化していないと想像されます。 太陽では、対流外層で起こるダイナモ効果により磁場の時間変化が起こり、それに伴って黒点の発生や太陽活動周期(solar cycle)があることが知られています。 太陽よりも表面温度の低い星では、磁場の活動がより活発であることが知られ、巨大な黒点が存在します。 それが自転で見え隠れすることにより変光を示す星も観測されています。 さらには、巨大なフレア現象を起こして増光する星、フレア星も存在することが知られています。 また一般に小質量星の自転速度は遅いことが知られています。 これは、磁場による角運動量放出が一因であると考えられています。
外層が輻射平衡になっている大・中質量の主系列星は、一般に速い自転速度(100~200km/s, 自転周期は1~2日)を持ちます。 この自転速度はドップラー効果によるスペクトル線の広がりから評価されます。 特にB型で速く、高速時点の効果により赤道付近からガスが飛び散り、星周ガスとなります。 そのため、スペクトルに輝線が見られるBe星も存在します。 また高速自転星の内部では、ゆっくりとした還流(meridional circulation)が発生することが理論的に予測されており、ある程度は星の内部が混合されていることが予想されていますが、この現象を定量的に扱う理論は未だ固まっていません。 また、進化に伴う恒星内部の角運動量分布の変化の取り扱いも難しい課題となっています。
有効温度が1万度程度のA型星には、300G-35kGの非常に強い磁場を持つ(\(10^4\)G=1 Tesla; 地磁気は\(\lesssim 1\)G)、金属吸収線が卓越したA型特異星(Ap星)が存在します。 これはA型星の約10%と言われています。 この強磁場は、化石(fossil)磁場だと考えられています。 なぜA型星の一部に磁場が残るのかの説明は解明されていません。 これらの星は遅い自転速度(<100km/s)を持ちますが、これは強い磁場の働きによるブレーキが大きな役割を果たしているためと考えられています。 また表面の特異な元素組成は、遅い自転と強磁場により大気が非常に安定しており、輻射を多く吸収する金属が光子から運動量をもらい浮上してきたものと説明されています。 またA型星には、自転が遅く金属線の卓越したスペクトルを持ちますが、磁場が観測されないA型金属線星(Am星)が存在します。 このような恒星はA型星の30%とされており、近接連星を構成していることから、潮汐作用で角運動量を失ったと考えられています。
参考文献
[1] Kurtz, 2022, “Asteroseismology across the HR diagram”
[2] 天文学辞典, 光度階級
[3] 野本憲一, 佐藤勝彦, 定金晃三, “シリーズ現代の天文学 恒星”