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トールマン効果
表面輝度(Surface brightness)に成り立つ赤方偏移依存性を導出しましょう。
導出
以下では簡単のため、天体は単色電磁波を放射しているとします。光度\(L [\mathrm{erg/s}]\)の点光源を観測したときのフラックスが\(f [\mathrm{erg/s/cm^2}]\)だったとします。点光源までの光度距離が\(D_L\)のとき、この2つの間には
\[f = \frac{L}{4\pi D_L^2} \tag{1}\]の関係が成り立ちます。ここで、このような点光源が個数密度\(n\)で、一辺\(\ell\)の立方体空間に存在するとしましょう。\(\ell \ll D_L\)とすると、この領域から観測される総フラックスは
\[F = \frac{L n \ell^3}{4\pi D_L^2} \tag{2}\]観測者はこの立方体領域を微小立体角\(\delta \Omega\)で見込むとすると、表面輝度\(I\)(単位時間,単位面積,単位立体角あたり単位周波数で放射するエネルギー)は
\[I = \frac{F}{\delta \Omega} \tag{3}\]です。ここで微小立体角は、角径距離を用いて\(\delta \Omega = \delta \theta^2 = (\ell / D_A)^2\)と書けるので
\[I = \frac{L}{4\pi} n \ell^3 \left( \frac{D_A}{\ell}\right)^2 \frac{1}{D_L^2} = \frac{L n\ell}{4\pi} \left( \frac{D_A}{D_L} \right)^2 = \frac{L n\ell }{4\pi} (1+z)^{-4} \tag{4}\]のようになります。表面輝度が赤方偏移の4乗に反比例して暗くなる、これをTolman効果と呼びます。これは宇宙膨張により一辺\(\ell\)が引き伸ばされて明るさが薄くなる効果で2乗、時間間隔と周波数間隔がそれぞれ引き伸ばされる効果で1乗ずつ、という内訳です。
熱的スニヤエフ・ゼルドビッチ効果との組合せ効果
銀河団は熱的Sunyaev-Zel’dovich効果(TSZ)により、高周波側で明るく輝きます。これは逆Compton散乱によるものです。逆Compton散乱の原理を考えると、これは背景光子が運動している高エネルギー電子から散乱を受けることでエネルギーを獲得するのでした。すると、その放射エネルギーは背景光子(ここではCMB光子)数に比例する形となることから
\[L_\mathrm{IC} \propto U_\mathrm{CMB}\]とわかります。状態方程式から宇宙論において相対論的物質は\(\rho_\gamma c^2 \propto T^4 \propto (1+z)^4\)の依存性があるとわかります。これとTolman効果から、Sunyaev-Zel’dovich効果により明るく輝く銀河団からの表面輝度\(I_\mathrm{SZ}\)は
\[I_\mathrm{SZ} \propto \frac{L_\mathrm{IC}}{(1+z)^4} = (赤方偏移に依存しない形)\]となります。このことから、銀河団のTSZ観測の表面輝度は赤方偏移に依存せず、遠方でも明るく輝いて見えることがわかります。
参考文献
[1] 北山哲, “銀河団”
[2] 和田圭一, 栗木久光, 亀野誠二, 谷口義明, 寺島雄一, 長尾透 共訳, “ピーターソン活動銀河核”