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  1. 重力赤方偏移
    1. 計算
    2. 重力赤方偏移
    3. 積分ザックス・ヴォルフェ効果

重力赤方偏移

計算

測地線方程式より

\[\frac{dp_\nu}{dx^0} = \frac{1}{2p^0} p^\mu p^\beta g_{\beta \mu, \nu}\]

これの第0成分を考えましょう。ただしメトリックテンソルが弱重力場極限

\[(g^{\mu \nu}) = \left( \begin{array}{cccc} -(1-2\Phi / c^2) & & & {\bf 0}\\ & 1+2\Phi/c^2 & & \\ & & 1+2\Phi/c^2 & \\ {\bf 0} & & & 1+2\Phi/c^2 \end{array} \right)\]

で書けるものとします。
光子の周波数は局所慣性系で定義します。すなわち

\[p^0 = \frac{d\bar{x}^0}{d\lambda} = \frac{h\nu}{c}\]

です。光子のエネルギーを\(\epsilon = h\nu\)で表します。局所慣性系では\(\bar{p}_0 = \eta_{00} \bar{p}^0 = -\epsilon/c\)であり、一般座標への変換則は

\[p_0 = \frac{\partial \bar{x}^\mu}{\partial x^0} \bar{p}_\mu\]

変換係数は、局所慣性系から一般座標系へのメトリックテンソルの変換で与えられる以下の連立方程式を解くことで得られます。

\[g_{00} = -(1+2\Phi/c^2) = \frac{\partial \bar{x}^\mu}{\partial x^0} \frac{\partial \bar{x}^\nu}{\partial x^0} \eta_{\mu \nu} \tag{1}\] \[g_{0i} = 0 = \frac{\partial \bar{x}^\mu}{\partial x^0} \frac{\partial \bar{x}^\nu}{\partial x^i} \eta_{\mu \nu} \tag{2}\] \[g_{ij} = (1-2\Phi/c^2)\delta_{ij} = \frac{\partial \bar{x}^\mu}{\partial x^i} \frac{\partial \bar{x}^\nu}{\partial x^j} \eta_{\mu \nu} \tag{3}\]

そして

\[\frac{\partial \bar{x}^0}{\partial x^0} = 1+\Phi /c^2, \ \frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^0} = 0, \ \frac{\partial \bar{x}^0}{\partial x^i} = 0, \ \frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^j} = (1-\Phi /c^2) \delta_{ij}\]

が、\(|\Phi/c^2|\)の1次までで、上の方程式群を満たす解の一つであることがわかります。
ここで変換係数は\(4\times 4\)行列で16個の未定成分を持ちますが、それを決定する方程式(1)~(3)式はメトリックテンソルが対称であるため、独立のものは10個のみです。したがって変換係数のうちの6個は未定となります。この6つはそれぞれ\(x, y, z\)軸周りの座標回転の自由度3つと\(x, y, z\)軸方向にそれぞれ等速直線運動する系へのローレンツ変換の自由度3つの合計6つの自由度に対応しています。よって、これらの変換を施しても同じメトリックが与えられることが予想できます。ここでは変換行列の非対角要素を0としましたが、これは出発点として使用した局所慣性系に対して相対運動をしておらず、空間の各軸は直行しているという自然な仮定を暗黙のうちにしていることに対応します。

よって

\[p_0 = -(1+\frac{\Phi}{c^2}) \frac{\epsilon}{c}\]

簡単のために光子の進行方向を\(x_1\)方向とし、重力レンズ効果による経路の曲がりが小さく、直進すると仮定する近似を適用します(ボルン近似)。測地線方程式より

\[-\frac{d}{dx^0} ((1+\frac{\Phi}{c^2}) \epsilon) = \frac{1}{2} g_{\alpha \beta, 0} \frac{p^\alpha p^\beta}{p^0} = \frac{1}{2} (g_{00,0}p^0 + g_{11, 0} \frac{(p^1)^2}{p^0}) = \frac{1}{p^0} (-\frac{\dot{\Phi}}{c^3} (p^0)^2 -\frac{\dot{\Phi}}{c^3} (p^1)^2)\]

ここで

\[0 = g_{\mu \nu} p^\mu p^\nu = -(1+\frac{2\Phi}{c^2}) (p^0)^2 + (1-\frac{2\Phi}{c^2}) (p^1)^2\]

を用いて\((p^1)^2\)を消去すると

\[\frac{d}{dx^0}((1+\frac{\Phi}{c^2})\frac{\epsilon}{c}) = \frac{2\dot{\Phi}}{c^3} p^0\]

となります。さらに

\[p^0 = g^{00} p_0 = - (1-\frac{2\Phi}{c^2}) p_0 \simeq (1-\frac{\Phi}{c^2}) \frac{\epsilon}{c}\]

を代入し、整理すると

\[\frac{d}{dt} (\epsilon + \epsilon \frac{\Phi}{c^2}) =\frac{2\epsilon}{c^2} \frac{\partial \Phi}{\partial t} \tag{4}\]

となります。これが重力場中を伝搬する光子のエネルギーの発展方程式です。

重力赤方偏移

(4)の式に置いて重力ポテンシャルが時間に依存しないとき、右辺は0になります。したがって光子の全力学的エネルギー\(\epsilon + \epsilon \Phi/c^2\)が保存します。第2項は重力ポテンシャルエネルギーです。

重力ポテンシャルエネルギーが低い場所から光子が出発し、重力に逆らってポテンシャルエネルギーが高いところへ移動するにつれて光子のエネルギーが小さくなります。端的に言えば、光の波長が伸びることになり、これを重力赤方偏移と呼びます。

宇宙論ではザックス・ヴォルフェ効果(Sachs-Wolfe effect)として、CMBの温度揺らぎの大角度スケールの揺らぎの振幅の決定に重要な役割を果たします。

積分ザックス・ヴォルフェ効果

(4)式の右辺は、光子が伝搬する途中で重力ポテンシャルが時間 変化することで光子のエネルギー変化を生じる効果を示しています。宇宙では、銀河や銀河団といった巨大な質量をもった天体は、固有速度を持って宇宙空間を運動しています。これら天体の背景の天体から放出された光が、これらの天体の通過する時に重力ポテンシャルの時間変化を感じ光子のエネルギーが変化します。
増減は、人工衛星のスイングバイの場合と同じで、衝突方向の入射でエネルギーが増加即ちブルーシフトし、追突方向の入射で減少即ちレッドシフトします。光が重力源により散乱される事でエネルギーが増減する効果なので重力散乱とも呼びます。
宇宙に存在する天体は、インフーレーションと呼ばれる宇宙創成期に量子揺らぎによって生成された物質密度のシワが、重力によって徐々に集まってきて形成されたと考えられています。もし宇宙のエネルギーが物質だけで構成され、幾何学的に平坦であるなら、揺らぎの振幅が十分小さい線形段階の揺らぎの成長過程で重力ポテンシャルは時間変化しません。観測から現在の宇宙は、幾何学的に平坦であるが、宇宙のエネルギーは物質がおよそ30%で残り70%はダークエネルギーと呼ばれる正体不明でその重力により宇宙を加速させる物質で構成されていることが明らかになっています。ダークエネルギーが存在すると揺らぎの振幅が十分小さい線形段階の揺らぎの成長段階の重力ポテンシャルに時間変化が生じます。そのため、CMBが我々に届く間にこの重力ポテンシャルの時間変化を感じてそのエネルギーに変化を生じます。密度揺らぎの進化によって生じる重力ポテンシャルの時間変化であるため、伝搬する方向によってどれだけエネルギーが変化するか異なります。この結果、CMBの温度揺らぎに特徴的な情報が刻印されます。伝搬過程での重力ポテンシャルの時間変化の積算量が観測されるのでこの効果を後期積分ザックス・ヴォルフェ効果(late integrated Sachs-Wolfe effect)と呼びます。これを利用してCMBの温度揺らぎの詳細を観測することでダークエネルギーに関する情報を引き出すことができます。
CMBが放たれる宇宙晴れ上がり期は物質優勢期ですが、輻射のエネルギー密度も宇宙膨張へ無視し得ない影響を持ちます。そのため宇宙晴れ上がり期からしばらくの期間は、密度揺らぎの成長に伴う重力ポテンシャルの時間変化が現れます。この結果、CMBの温度揺 らぎに特徴的なパターンが刻印されます。この効果を前期積分ザックス・ヴォルフェ効果(early integrated Sachs-Wolfe effect)と呼ばれ、宇宙の物質密度の測定に用いられます。


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