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重力波の振幅、四重極公式
重力波の振幅はどの程度のものなのかをこのページにまとめました。途中でダランベール方程式の解の導出(後日掲載予定)を用いています。
計算
時空に摂動が加わり、計量テンソルが
\[g_{\mu \nu} = \eta_{\mu \nu} + h_{\mu \nu}\] \[(\eta_{\mu \nu}) = \left( \begin{array}{cccc} -1 & & & {\bf 0} \\ & 1 & & \\ & & 1 & \\ {\bf 0} & & & 1 \end{array} \right), (h_{\mu \nu}) = \left( \begin{array}{cccc} 0 & & & {\bf 0} \\ & E_+ & & \\ & & -E_+ & \\ {\bf 0} & & & 0 \end{array} \right)\]のように変化したとします。ただし\(\| E_+ \| \ll 1\)です。重力波の伝搬速度を求める部分とアインシュタイン方程式より
\[\frac{1}{2} \left(\frac{1}{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} - \nabla^2 \right) h_{\mu \nu} = \frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu \nu} \ \Longrightarrow \ \Box h_{\mu \nu} = - \frac{16\pi G}{c^4} T_{\mu \nu}\]ここで\(\Box\)はダランベール演算子です。ダランベール方程式の解より
\[h_{\mu \nu} = -\frac{1}{4\pi} (-\frac{16\pi G}{c^4}) \iiint_{V'} \frac{[T_{\mu\nu}]}{|{\bf r}-{\bf r}'|} dV' = \frac{4G}{c^4} \iiint_{V'} \frac{[T_{\mu\nu}]}{|{\bf r}-{\bf r}'|} dV'\]さらに\([T_{\mu\nu}] \equiv T_{\mu \nu} ({\bf r}', t-\| {\bf r}-{\bf r}' \| /c)\)であり、遅延時刻(retarded time)での物理量を[]で表します。
考えている重力波源の大きさ\(R\)に比べて、重力波源の位置は観測者から十分に遠いと仮定します。すなわち\(r = \| {\bf r} \| \gg R\)とすると
と展開できます。これより
\[T_{\mu \nu} ({\bf r}', t-\frac{|{\bf r}-{\bf r}'|}{c}) = T_{\mu \nu} ({\bf r}', t-\frac{r}{c}) + \frac{\bf{r} \cdot \bf{r}'}{r} \frac{1}{c} \frac{\partial }{\partial t} T_{\mu \nu} (\bf{r}', t-\frac{r}{c}) + \cdots\]この式の第2項の大きさを見積もりましょう。先ほどの重力波源の位置が観測者から十分に遠いという仮定から\({\bf r} \cdot {\bf r}' \gg 1\)であることと、天体の運動時間(時間変動)が十分ゆっくりであるというスローモーション近似\(\partial / \partial t \sim 0\)と考えると、第2項は十分小さいと考えられます。よって
\[h_{\mu \nu} \simeq \frac{4G}{c^4 r} \iiint_{V'} T_{\mu \nu} ({\bf r}', t-\frac{r}{c}) dV'\]と書けます。重力波の成分は空間成分にしか依存しないため、以降は\(h_{ij}\)のみを考えましょう。唐突ですが
\[(T^{\alpha \beta} x'_i x'_j)_{, \alpha \beta} = (T^{\alpha \beta}_{\ \ , \alpha} x'_i x'_j + T^{\alpha \beta} \delta_{i\alpha} x'_j + T^{\alpha \beta} x'_i \delta_{j\alpha} )_{, \beta}\]という量を考えます。完全流体のエネルギー・運動量テンソルは保存則\(T^{\alpha \beta}_{\ \ , \alpha} = 0\)を満たすので
\[(T^{\alpha \beta} x'_i x'_j)_{, \alpha \beta} = (T^{\ \beta}_{i} x'_j + T^{\ \beta}_{j} x'_i)_{, \beta} = T^{\ \beta}_i \delta_{j\beta} + T^{\ \beta}_{j} \delta_{i \beta} = 2 T_{ij}\]です。一方、
\[\begin{aligned} \iiint_{V'} (T^{\alpha \beta} x'_i x'_j)_{, \alpha \beta} dV' &= \iiint_{V'} ((T^{0 \beta} x'_i x'_j)_{,0 \beta} + (T^{k \beta} x'_i x'_j)_{,k \beta}) dV' \\ &= \iiint_{V'} ((T^{0 0} x'_i x'_j)_{,0 0} + (T^{0 \ell} x'_i x'_j)_{,0 \ell}) + (T^{k \beta} x'_i x'_j)_{,k \beta} )dV' \\ &= \iiint_{V'} (T^{00} x'_i x'_j)_{, 00} dV' + \iint_{S'} (T^{0\ell} x'_i x'_j)_{, 0} dS_{\ell} + \iint_{S'} (T^{k\beta} x'_i x'_j)_{, \beta} dS_k \\ &= \iiint_{V'} (T^{00} x'_i x'_j)_{, 00} dV' = \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 }{\partial t^2 } \iiint_{V'} \rho c^2 x'_i x'_j dV' \\ &= \frac{\partial^2 }{\partial t^2 } \iiint_{V'} \rho x'_i x'_j dV' \end{aligned}\]と計算されます。途中、ガウスの定理と無限遠での面積分は0であること、そして\(T^{00} = \rho c^2\)を用いました。以上より
\[h_{ij} \simeq \frac{2G}{c^4 r} \frac{\partial^2 }{\partial t^2 } \iiint_{V'} \rho x'_i x'_j dV'\]ここで四重極モーメント
\[D_{ij} = \iiint_{V'} \rho x'_i x'_j dV'\]を用いて
\[h_{ij} \simeq \frac{2G}{c^4 r} \ddot{D}_{ij} (t-r/c)\]となります。電磁放射の場合、双極子放射が最低次であったのに対し、重力波は四重極放射が最低次となります。これは次のように解釈できます。
電磁気学では磁気単極子が存在しない(\(\nabla \cdot {\bf B} = 0\))ため、電磁放射は双極子成分から始まります。
重力理論では、質量単極子にあたる成分は質力保存則、質量双極子にあたる成分は運動量保存則になるため、重力波放射は四重極成分から始まると考えることができます。
参考文献
- [1] 川村, 重力波天文学の最前線
- [2] 平松, 宇宙論的起源の背景重力波による余剰次元の探求