Table of contents
- はじめに
- 2021年arXiv総括
- 量子アルゴリズム分野
- Quantum algorithm for Feynman loop integrals
- Demonstrating robust simulation of driven-dissipative problems on near-term quantum computers
- Quantum Rounding
- Pricing multi-asset derivatives by finite difference method on a quantum computer
- Conditions for Advantageous Quantum Bitcoin Mining
- Quantum Algorithm for Solving Quadratic Nonlinear System of Equations
- Quantum Interior Point Methods for Semidefinite Optimization
- Quantum Signal Processing (QSP) for simulating cold plasma waves
- Deterministic Grover search with a restricted oracle
- 量子古典ハイブリッド分野
- Solving partial differential equations in quantum computers
- Avoiding local minima in Variational Quantum Algorithms with Neural Networks
- Quantum Monte Carlo simulation of many-body dynamics with mitigated error on noisy quantum computer
- Variational Quantum Optimization with Multi-Basis Encodings
- Advancing Hybrid Quantum-Classical Algorithms via Mean-Operators
- An exponentially more efficient optimization algorithm for noisy quantum computers
- NISQ-HHL: Portfolio Optimization for Near-Term Quantum Hardware
- Variational Hamiltonian Ansatz for 1D Hubbard chains in a broad range of parameter values
- Observing ground-state properties of the Fermi-Hubbard model using a scalable algorithm on a quantum computer
- Markov Chain Monte-Carlo Enhanced Variational Quantum Algorithms
- 量子機械学習分野
- Towards understanding the power of quantum kernels in the NISQ era
- A Quantum Convolutional Neutral Network on NISQ Devices
- The dilemma of quantum neural networks
- QFCNN: Quantum Fourier Convolutional Neural Network
- QDataset: Quantum Datasets for Machine Learning
- Quantum reservoir computation utilising scale-free networks
- Exponentially Many Local Minima in Quantum Neural Networks
- Subtleties in the trainability of quantum machine learning models
- Importance of Kernel Bandwidth in Quantum Machine Learning
- Quantum advantage in learning from experiments
- 古典計算・古典アルゴリズム
- An explicit vector algorithm for high-girth MaxCut
- Large scale multi-node simulations of ℤ2 gauge theory quantum circuits using Google Cloud Platform
- Closing the “Quantum Supremacy” Gap: Achieving Real-Time Simulation of a Random Quantum Circuit Using a New Sunway Supercomputer
- Discovering hydrodynamic equations of many-body quantum systems
- Revisiting dequantization and quantum advantage in learning tasks
- 量子ビット・ゲート・ハード開発
- 量子誤り訂正・軽減
- 統計物理学
- Realizing topologically ordered states on a quantum processor
- Mean Field Approximation for solving QUBO problems
- A Quantum Inspired Approach to Exploit Turbulence Structures
- Observation of Time-Crystalline Eigenstate Order on a Quantum Processor
- Storage properties of a quantum perceptron
- Digitized-Counterdiabatic Quantum Optimization
- 量子アニーリング
- 量子力学・場の理論など
- PoC
- 量子実験
- 量子鍵配送・量子通信・量子暗号
- ソフトウェア開発
- 量子コンパイラ
- 数学・計算量
- 量子ウォーク
- 量子センシング
- 量子教育・技術育成など
- (量子)測定・制御
- 分散・並列量子計算
- 量子アルゴリズム分野
- 統計情報
- 結言
はじめに
こちらは Qiitaさんの量子コンピュータアドベントカレンダー Advent Calendar 2021 23日目の「今年のarXiv/quantphチェックで面白かったものをご紹介」の記事です。
昨年の4月からquantphのチェックを(可能な限り)毎日行い始めました。そしてそれを記録に残すためにTwitterでの情報発信並びにGitHubのリポジトリのIssuesに登録する作業を行ってきました。今回は2021年にGitHubにissue登録されているものの中から、個人的に特に面白いと思ったものを抽出します。
注意: 量子コンピュータについてはまだまだ門外漢のため、間違った解釈をしているものもあるかもしれません。またここに記載されたものが全てではないことにもご留意ください。
2021年arXiv総括
特に面白いと感じたもののみを抽出したつもりですが、たくさんあります。
量子アルゴリズム分野
量子アルゴリズムタグがついたものは174本ありました。
Quantum algorithm for Feynman loop integrals
Feynman loop積分を計算する量子アルゴリズムの考案。Groverのアルゴリズムを効率的に修正したものを用いることで、O(1)の反復回数しか必要としない。
ピックアップ理由: O(1)の反復回数という強力な手法であることと、Feynman積分の計算の幅が広がることからピックアップしました。
ArXiv
Demonstrating robust simulation of driven-dissipative problems on near-term quantum computers
量子力学の難問である駆動散逸多体問題を解くアルゴリズムがエラーに対して本質的にロバストであることを示した。ノイズの多いハードウェア上で、散逸問題をシミュレーションするアルゴリズムが非散逸アルゴリズムを凌駕する結果に。
ピックアップ理由: 散逸問題のシミュレータとして、NISQの可能性の1つを提示したすごい論文と感じました。
ArXiv
Quantum Rounding
有限精度の量子演算精度を向上させる丸め込み手法。複数サンプルを用いることで確率的に丸め誤差を抑制。量子レジスタに格納された固定変数乗算において、同じ量子ビット数で2-3倍のゲート数とdepth削減。ゴールドマンサックスの論文。
ピックアップ理由: 数値計算などで重要な問題となる丸め誤差、それを量子コンピュータ上で考えるという意欲的な研究であることから選出しました。
ArXiv
Pricing multi-asset derivatives by finite difference method on a quantum computer
ブラック・ショールズ偏微分方程式を有限差分法で解く量子アルゴリズムの提案。量子線形系アルゴリズムに基づいて微分方程式を解くための量子アルゴリズムを利用しており、次元に対して指数関数的な高速化を達成。大阪大とメルカリの論文。
ピックアップ理由: 金融工学の基礎となる方程式を解く量子アルゴリズムの考案したもの。しかも指数関数的な高速化を達成しており、今後の量子コンピュータ金融計算に拍車をかける論文としてピックアップしました。
ArXiv
Conditions for Advantageous Quantum Bitcoin Mining
量子コンピュータを用いたビットコインマイニング。Q<Crbの場合に量子採掘が古典より効率的になると判明(Q: Groverの反復コスト, C: 古典ハッシュコスト, r:1秒間に行うGrover反復回数, b: 最適なマイニング手順を用いた場合に最大となる定数)
ピックアップ理由: 最近流行りのビットコイン。現在そのマイニングはGPUなどを用いた並列計算が主流となっていますが、これを量子コンピュータでやろうとしたもの。その話題性からピックアップしました。
ArXiv
Quantum Algorithm for Solving Quadratic Nonlinear System of Equations
n次元の2次非線形方程式を解く量子アルゴリズム。ホモトピー摂動法と線形化手法を用いて有限次元の線型方程式に埋め込み、量子線形系ソルバーを用いてこれを解き、元の非線形方程式の規格化された厳密解に誤差ε, 成功確率Ω(1)で得る。
ピックアップ理由: 量子コンピュータでここまで複雑な計算ができるようになるとは、という驚きも含めて選出しました。成功確率がちゃんと1のオーダーになることも理由の1つです。
ArXiv
Quantum Interior Point Methods for Semidefinite Optimization
半正定値最適化問題に対する2つの量子内点法を提案。1. 古典に近い解法で、探索方向が不正確かつ実行可能解のみの探索が保証されない。2. ニュートン線形系のゼロ空間表現を用いて、不正確な探索方向でも実行可能であることを保証する手法。
ピックアップ理由: 連続最適化のアルゴリズムとして知られる内点法の量子バージョンを考案した論文。私自身が最適化に執心していることもあり選びました(量子古典ハイブリッドタグとも迷いましたが、量子アルゴリズムタグでの選出となりました)。
ArXiv
Quantum Signal Processing (QSP) for simulating cold plasma waves
冷たいプラズマ中の波、特に非一様な1次元プラズマ中を伝搬するX波について計算する量子アルゴリズムを考案。量子回路エミュレータを用いて計算したところ、従来の古典計算と一致する結果を得た。量子回路でプラズマ計算…めっちゃ気になる!
ピックアップ理由: 大学院時代にプラズマ物理を少し学んだことがある経緯から、とても面白そうに見えた論文。今後これが発展し、核融合プラズマを量子コンピュータで計算するような時代がもうすぐそこまで来ているかも?
ArXiv
Deterministic Grover search with a restricted oracle
Groverのアルゴリズムにおいて、量子探索オラクルをユーザが制御することなく正しい結果を確実に返すように改良。オリジナルのGrover探索での最適なステップ回数と比較して、1回以上の追加反復で100%の成功率を達成。
ピックアップ理由: Groverをさらに高速化したもの。1回以上の追加反復、という強力さから選出しました。
ArXiv
量子古典ハイブリッド分野
量子古典ハイブリッドタグがついたものは168本でした。
Solving partial differential equations in quantum computers
偏微分方程式を解くための変分量子アルゴリズムの考案。対称性のある滑らかな関数を表現するための変分回路をansatzとして実装し、古典optimizerと組み合わせる。論文では1次元調和振動子を3量子ビットで10^-5誤差で計算できたと報告。
ピックアップ理由: NISQを用いた数値計算の幅が広がる研究として選出しました。
ArXiv
Avoiding local minima in Variational Quantum Algorithms with Neural Networks
量子回路から古典ニューラルネットワークにアウトプットすることで、変分量子回路最適化のための勾配ベースアプローチを改善する手法。コスト関数の概形自体を修正することで局所解を回避することができる。
ピックアップ理由: その組合せを上手に用いた改善研究に脱帽しました。量子アニーリングでも同様のことができるのか?とか他にも発展させることができそうです。
ArXiv
Quantum Monte Carlo simulation of many-body dynamics with mitigated error on noisy quantum computer
量子モンテカルロ法をNISQで高速化するための新アルゴリズム。Fault-tolerant量子コンピュータ上でのアルゴリズムの複雑性は従来のものと同じ多項式、NISQでは誤差軽減をするこのアルゴリズムにより、モンテカルロ法の符号問題を緩和できる。
ピックアップ理由: 量子モンテカルロ法で必ず壁となる不符号問題の解決の糸口となるかもしれない、その重要性から選出しました。
ArXiv
Variational Quantum Optimization with Multi-Basis Encodings
多基底グラフエンコーディングと非線形活性関数を用いることで、非常に回路depthが浅くても既存手法を凌駕する変分量子アルゴリズムの開発。1つのGPUで512頂点(量子ビット)の高連結MaxCut問題を最適化することに成功。NVIDIAなどの研究。
ピックアップ理由: 回路のdepthを大幅に削減した画期的な手法。最近、量子関連でNVIDIAを見かけることも多くなってきました。
ArXiv
Advancing Hybrid Quantum-Classical Algorithms via Mean-Operators
量子多体系のエンタングルメント計算に必要となる量子ビット・量子演算の膨大な数を解消するためにハイブリッドアルゴリズムと物性物理の平均場理論を組合せた手法。平均演算子により多体状態を準備するための量子演算回数を大幅に減少させた
ピックアップ理由: 物性・統計物理の平均場をNISQアルゴリズムに組合わせるという斬新な手法。これからもこのような物理に触発された素晴らしいアルゴリズムの誕生に期待を込めて選出しました。
ArXiv
An exponentially more efficient optimization algorithm for noisy quantum computers
QAOAに比べて指数関数的に少ない量子ビット数でありながら、MaxCut問題を解くのに必要な量子演算数を大幅に削減した新しい量子最適化アルゴリズム。32ノードグラフを5量子ビットで、グラフ分割などの前処理なしに解くことができた。
ピックアップ理由: 最適化問題を量子回路で解くQAOAより超効率的な解法。今後の発展や応用に期待を込めて選びました。
ArXiv
NISQ-HHL: Portfolio Optimization for Near-Term Quantum Hardware
NISQで小規模なportfolio最適化問題をend-to-endで実行するハイブリッドHHL, NISQ-HHL. これまでのハイブリッドHHLを拡張して量子ハードウェアの新機能である回路途中の測定・量子条件論理(QCL)・量子ビットリセット・再利用を用いている。
ピックアップ理由: 小規模ながら着実にNISQの応用が広がっていることから選出しました。最近の機能を積極的に用いているというのもポイントが高い。
ArXiv
Variational Hamiltonian Ansatz for 1D Hubbard chains in a broad range of parameter values
1次元Hubbard鎖の物理は変分ハミルトニアンアンザッツ(VHA)によってどの程度記述できるかを調べた。低fidelityの解でもエネルギーや2重占有サイトの数をよく捉えることができるが、スピン-スピン相関は高fidelityでもあまり捉えられないと判明
ピックアップ理由: NISQでの量子古典ハイブリッドアルゴリズムではFidelityだけでなく、他の関係量なども考えなければならないことを示したもの。今後のNISQアルゴリズム開発の重要な指針になることからピックアップしました。
ArXiv
Observing ground-state properties of the Fermi-Hubbard model using a scalable algorithm on a quantum computer
効率的でパラメータ数の少ない低depthの変分量子アルゴリズムが、Fermi-Hubbardモデルの中規模サイズのインスタンスの重要な性質を再現できることを実験的に示した。これは古典で解くことができる1次元のインスタンスを凌駕。Googleなどの研究
ピックアップ理由: こちらは対照的にNISQの可能性を感じさせる論文。今後も難しい問題が量子コンピュータで解かれていってほしいという期待から選びました。
ArXiv
Markov Chain Monte-Carlo Enhanced Variational Quantum Algorithms
古典MCMCを用いて大域最適解に確実に収束する変分量子アルゴリズム。このアルゴリズムの状態空間のエルゴード性から性能が保証されており、時間複雑性が解析的に分かる。MaxCutを用いて実際にこの手法の有効性を検証した。IBMなどの研究。
ピックアップ理由: 大域最適解に確実に収束するという強力性から選びました。
ArXiv
量子機械学習分野
量子機械学習タグがついたものは128本でした。
Towards understanding the power of quantum kernels in the NISQ era
量子機械学習における量子カーネルがエラーの多いNISQでも有効かどうか調査。データセットが大きい・測定回数が少ない・システムノイズが大きい場合、量子カーネルの優位性が失われると判明。
ピックアップ理由: 「結局のところfault tolerant量子コンピュータができないと量子機械学習も機能しないんだな」と再考させられる論文です。
ArXiv
A Quantum Convolutional Neutral Network on NISQ Devices
NISQデバイスで、古典よりも計算複雑性を大幅に削減した量子畳み込みニューラルネットワーク(QCNN)。画像認識においてある種のノイズに対して安定で、必要なパラメータが入力サイズに依存しないため、NISQで有効。
ピックアップ理由: 量子畳み込みニューラルネットワークをNISQでも実行できるように改良したもの。ますます量子機械学習が身近なものになりました。
ArXiv
The dilemma of quantum neural networks
実験の結果、現在の量子ニューラルネットワーク(QNN)が古典学習モデルに比べて何の利点ももたらさないことが経験的に観察された。有効なモデル容量が限られることと、QNNの学習可能性が正則化テクニックの影響を受けないことが要因と推察。
ピックアップ理由: 量子機械学習はまだ発展途上の研究分野であることを示した論文。今後の理論展開に期待です。
ArXiv
QFCNN: Quantum Fourier Convolutional Neural Network
新しい量子・古典ハイブリッド回路である量子フーリエ畳み込みネットワーク(QFCNN)の提案。古典CNNに比べて理論的に指数関数的な高速化を達成、既存のQCNNの最良の結果を上回った。ふえぇ…すごいよぉ
ピックアップ理由: 今後のQCNN研究に拍車をかけそうなすごい論文です。ちゃんと理解したい。
ArXiv
QDataset: Quantum Datasets for Machine Learning
量子機械学習アルゴリズム開発を促進するために設計されたデータセット“QDataSet”。1, 2量子ビットの計算から得られた52個の高品質データを用意している。機械学習実務者が量子制御・量子分光・量子トモグラフィーなどに使えるように豊富な情報を提供。
ピックアップ理由: このような地道な整備が研究を後押しすると信じています。
ArXiv
Quantum reservoir computation utilising scale-free networks
スケールフリーなネットワークを用いて量子優位性を示すパターン認識のための量子リザーバ・コンピューティングモデル。スケールフリーネットワークに内在する複雑性を利用するため、量子レイヤのプログラミングや最適化を必要としない。
ピックアップ理由: スケールフリーネットワークの性質をそのまま用いることで、そちらに煩雑な部分を押し付けるという工夫をしたもの。発想の面白さから選びました。
ArXiv
Exponentially Many Local Minima in Quantum Neural Networks
QNN損失関数のランドスケープを定量的に調査。パラメータ不足のQNNに対して、パラメータ数に依存して指数関数的に局所解が増えるインスタンスを作れると判明。古典ではこの局所最小は非線形活性化によるものだが、QNNでは量子干渉によるもの。
ピックアップ理由: Barren plateauの研究ばかり目にするような気がしますが、これは局所解の数に着目したもの。量子ニューラルネットワークを用いて大域解を目指す上で重要な研究です。
ArXiv
Subtleties in the trainability of quantum machine learning models
VQAのパラメータ学習可能性とQMLについての枠組みを橋渡し、VQAの勾配スケーリング結果がQMLの勾配スケーリングの研究にも適用できると判明。VQAで悪影響を及ぼす特徴はQMLでもbarren plateauのような問題を引き起こす可能性を示唆。
ピックアップ理由: VQAでのbarren plateau回避の研究が、そのまま量子機械学習に光明をもたらすことになるかも?
ArXiv
Importance of Kernel Bandwidth in Quantum Machine Learning
量子カーネル帯域幅を最適化することでカーネル法の性能を、ランダムな推測から最良の古典手法に匹敵するものへ改善できると判明。通常のカーネル値はqubit数に応じて指数減少するが、帯域幅最適化を行うとqubit数増加に伴って性能が向上。
ピックアップ理由: 何かとすごいカーネル法、その量子版である量子カーネルの性能を向上させる研究。今後、この研究が発展すれば古典を凌駕する量子カーネルが生まれるかも?
ArXiv
Quantum advantage in learning from experiments
物理状態の学習と物理ダイナミクスの学習という2つのタスクにおいて、従来よりも指数関数的に少ない回数で学習できる量子優位性を実証した。Google Quantum AI, Microsoft Research AI, AWSなどが共著のすごい論文や!
ピックアップ理由: 量子マシンを使えば効率的に自然界を理解することが可能になることを示した素晴らしい論文です。
ArXiv
古典計算・古典アルゴリズム
量子機械学習タグがついたものは87本でした。
An explicit vector algorithm for high-girth MaxCut
MaxCutを解くための近似アルゴリズム。MaxCutの半正定値緩和の陽的なベクトル解を構築、超平面丸め込みを適用するというもの。この手法はこれまでの古典・量子アルゴリズム全てを凌駕するものらしい。
ピックアップ理由: MaxCutにしか使えないのか?という感じですが、今後も古典アルゴリズムが発展すれば、量子優位性を示すのは難しそうという意味を込めてピックアップしました。
ArXiv
Large scale multi-node simulations of ℤ2 gauge theory quantum circuits using Google Cloud Platform
Google Cloud Platformを用いたqsimのマルチノード実装による大規模計算。TPUを用いて大規模な量子回路シミュレーションが劇的に高速化できることを示した。また最大36量子ビットのシステムサイズでZ2量子場理論を計算した。
ピックアップ理由: GoogleのTPUは機械学習専用という感じでしたが、これを機にTPUを使った高効率量子回路シミュレーションが活発になるかもしれないという期待から選出しました。量子回路シミュレーションといえばテンソルネットワーク、という時代に一石を投じる研究となるかもしれない。この論文以外にも同様にTPUを利用した高効率計算を研究しているのも面白いです。
ArXiv
Closing the “Quantum Supremacy” Gap: Achieving Real-Time Simulation of a Random Quantum Circuit Using a New Sunway Supercomputer
スパコンSunway上でテンソルベースの高性能なランダム量子回路シミュレータを開発。4200万コア対応の3段階並列化手法などにより、1010(qubits)(1+40+1)(depth)まで計算可能に。Sycamoreのシミュレーション時間を1万年から304秒まで短縮した
ピックアップ理由: Googleの量子超越性にトドメを刺した研究。今後も古典と量子がしのぎを削り、両者ともに発展していくことが見て取れます。また量子優位性・超越性を示すには数学的にきっちり示されなければならない警鐘も鳴らしました。
ArXiv
Discovering hydrodynamic equations of many-body quantum systems
量子多体系の限られたデータから有効な方程式を自動的に発見する新しい機械学習フレームワーク。これまで知られていたある種の極限において流体力学方程式になることを再現し、さらに新しい方程式も発見した。可能な限りその導出も行なった。
ピックアップ理由: 量子多体系を機械学習で理解するという新潮流、その可能性を広げるものとしてピックアップしました。
ArXiv
Revisiting dequantization and quantum advantage in learning tasks
xベクトルへのSQ(Sample and Query)アクセスをもつ古典アルゴリズムが、量子状態を入力する量子アルゴリズムよりも指数関数的に高速にいくつかの学習タスクを達成できると証明。量子優位性が得られないのはSQアクセスが強力すぎるため?
ピックアップ理由: 強力すぎる古典アルゴリズムの例。今後これを破る量子アルゴリズムが現れることを期待してピックアップしました。
ArXiv
量子ビット・ゲート・ハード開発
量子機械学習タグがついたものは80本でした。
Resolving catastrophic error bursts from cosmic rays in large arrays of superconducting qubits
大規模量子プロセッサに衝突する高エネルギー宇宙線を直接観測。衝突粒子が基盤をイオン化、高エネルギーフォノンを放射し準粒子のバーストを誘発する。この実験ではチップ全体の故障原因となる大規模な準粒子バーストを特定した。
ピックアップ理由: 高エネルギー宇宙線の物理学が量子コンピュータ製作に大きく関わることを示した重要な研究です。また量子ビット製造の困難性を浮き彫りにした研究でもあります。
ArXiv
Strong quantum computational advantage using a superconducting quantum processor
66量子ビットの2次元プログラマブル超伝導量子プロセッサZuchongzhiを開発。そのうちの56量子ビットまでを用いてランダムな量子回路サンプリングを行った。Zuchongzhiが1.2時間で終えたタスクはスパコンで最低8年かかり、量子優位性を示した。
ピックアップ理由: 量子コンピュータ業界における中国の躍進を感じさせる論文。量子ハードウェア技術はもはや中国が世界一?
ArXiv
A universal qudit quantum processor with trapped ions
7次元ヒルベルト空間を持つイオントラップで普遍的な量子プロセッサを実証実験。現在の多くの量子ビットは古典からのアナロジーで2進法で動作しているが、高次元が必要な量子計算や量子ビットを基本にしたアルゴリズムの実装が可能となる。
ピックアップ理由: 8準位系を用いた量子計算の実現なるか?今後もより効率的に量子計算を行うための量子ビット開発が進むかもしれません。
ArXiv
Magnon Bose-Einstein condensate based qubit calculus
イットリウム・鉄・ガーネットのフェリ磁性膜中の2つの室温マグノン・ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)状態を用いた、室温量子コンピューティングを提案。2つのBECは群速度0で静止しており、量子ビットを形成する直交基底状態として機能。
ピックアップ理由: 室温でも動作する量子ビットが作れれば、量子コンピュータも一気に普及するだろうという期待をこめてピックアップしました。
ArXiv
量子誤り訂正・軽減
量子誤り訂正・軽減タグがついたものは76本でした。
Dynamically Generated Logical Qubits
動的に生成された論理量子ビットを用いた量子誤り訂正。このコードは論理量子ビットを持たなたいが測定パターンによって論理量子ビットが生成されるため、fault-tolerant量子メモリとして機能する。Microsoftの論文。
ピックアップ理由: 動的に論理量子ビットを生成するため、論理量子ビットを持たない符号。まだまだ誤り訂正は基礎勉強が必要ですが面白そうなのでピックアップしました。
ArXiv
Measurement-Free Ultrafast Quantum Error Correction by Using Multi-Controlled Gates in Higher-Dimensional State Space
より高次元の状態空間に基づく多制御ゲートを用いて実現した、測定を用いないリアルタイム誤り訂正。測定が必要な誤り訂正に比べて誤り訂正およびアンシラ量子ビットのリセットにかかる時間を短縮した。東大の研究、スゴイ…
ピックアップ理由: リアルタイムかつ測定を用いない誤り訂正。これが実用化されれば、文字通りリアルタイムに量子誤り訂正ができるようになるインパクトからピックアップしました。
ArXiv
Noise-Resistant Quantum State Compression Readout
量子ビットの状態を1つのアンシラ量子ビットに圧縮し、それを測定することで多量子ビット測定に起因するエラーを回避する「圧縮読み出し法」の提案。量子ビット数の大規模化に伴う読み出しに対する耐性を大幅に向上させた。
ピックアップ理由: 今後の大規模化に必要なエラー回避手法として選出しました。
ArXiv
Realizing Repeated Quantum Error Correction in a Distance-Three Surface Code
表面符号を用いた量子誤り訂正を実証。17物理量子ビットの超伝導回路においてわずか1.1µsの誤り訂正サイクルで、論理量子ビットの4つの主要な状態の保存。このサイクルを繰り返すことでビット/位相反転エラーシンドロームを測定・デコード可能
ピックアップ理由: 理論発展が中心的だった量子誤り訂正、そのうちの表面符号が実験室でついに実現。そのインパクトからピックアップしました。
ArXiv
統計物理学
統計物理学タグがついたものは71本でした。
Realizing topologically ordered states on a quantum processor
トポロジカル秩序状態を超伝導量子プロセッサ上で実現。量子プロセッサがトポロジカル量子物質や量子誤り訂正に新しい光をもたらすかも?Google Quantum AIの論文。
ピックアップ理由: 統計物理として面白いだけでなく、量子誤り訂正などへの応用も期待される研究であることから選出しました。
ArXiv
Mean Field Approximation for solving QUBO problems
NP困難なQUBO問題を解くための、平均場アニーリングによる統計物理的なアプローチと量子力学的なアプローチが同じ結果となることを示した。
ピックアップ理由: 統計物理的なダイナミクスが量子力学ダイナミクスと等価であることを示したもの。量子アニーリングなどの理解促進につながるかも?
ArXiv
A Quantum Inspired Approach to Exploit Turbulence Structures
量子多体系物理から触発された乱流の構造を分析する方法。異なる長さスケール間の相関を定量化、tensor network理論を用いて乱流計算の構造を分解。従来手法に比べて1桁少ない計算スペースで非圧縮ナビエ・ストークス方程式を解けた。マジ!?
ピックアップ理由: 統計物理と流体力学の奇妙な関係を示し、さらに非圧縮Navier-Stokesを高効率で計算できたというすごい論文です。
ArXiv
Observation of Time-Crystalline Eigenstate Order on a Quantum Processor
超伝導量子ビットのアレイ上に可変CPHASEゲート群を実装、これにより固有状態の秩序化した離散時間結晶(DTC)を実験的に観測。さらに実験的な有限サイズ解析によりDTCでなくなる相転移位置を特定。Google Quantum AIの論文。
ピックアップ理由: 時間結晶をQPU上で実験的に実現したもの。ますます非平衡物理解明が量子コンピュータ上で進みそう。
ArXiv
Storage properties of a quantum perceptron
統計力学を用いて特定の量子パーセプトロンアーキテクチャの記憶容量を調査、その解析を古典的なスピングラス理論に結びつけた。ニューラルネットワークのさらなる研究に統計力学手法を用いることについてもコメントしている。
ピックアップ理由: 情報統計力学と呼ばれる分野の研究、ただしこれは古典ではなく量子パーセプトロン。古典と量子でどのように解析が異なるのか、またこの結果を受けて量子パーセプトロン研究がどのように広がるのかが面白そうです。
ArXiv
Digitized-Counterdiabatic Quantum Optimization
組合せ最適化問題の全クラスを含むIsing spin-glassに対して、断熱量子最適化よりも多項式強化を達成するDegitized-Counterdiabatic Quantum Optimization。常にstoquastic Hamiltonianの断熱量子計算より優れた結果に。時代はspin-glassや!
ピックアップ理由: スピングラスの勉強・研究がますます楽しくなりそうな研究。2021年ノーベル物理学賞にもスピングラス研究が貢献したことから、今後ますます発展しそうです。
ArXiv
量子アニーリング
量子アニーリングタグがついたものは60本でした。
Simulated quantum annealing as a simulator of non-equilibrium quantum dynamics
経路積分モンテカルロ法によるシミュレーテッド量子アニーリング(SQA)が量子アニーリングの量子力学を正しく再現できているかを、一般化Kibble-Zurek機構を用いて研究。SQAは一部を再現すると判明。東工大西森さんが共著。
ピックアップ理由: SNSなどで「古典で量子アニーリングをシミュレートできない」という議論を巻き起こした研究。ちゃんと読んでみるとSQAアルゴリズムが量子アニーリングを一部正しく表現できないということを示したものでした。今後の発展次第で、量子アニーリングの原理解明や性能刷新が起こるかもしれません。
ArXiv
Diversity metric for evaluation of quantum annealing
発見される解の多様性の定量的な評価指標 Time-to diversity(TTD)を用いてQAと古典を比較。QAは古典より優れているか同等の性能であると判明。高品質で多様な解のセットが必要なポートフォリオなどではQAが有利かも?
ピックアップ理由: TTSならぬTTD。量子アニーリングの性能評価の指標として、新しい潮流を開くかも?
ArXiv
Diversity measure for discrete optimization: Sampling rare solutions via algorithmic quantum annealing
NP困難な最適化問題に対して独立した近似解の数を定量化するための多様性指標を導入。不均一なQAスケジュールは、TTS, TTDの両方に関して標準的なQAスケジュールよりも有利になると判明。
ピックアップ理由: 先程のTTDを用いて量子アニーリングの性能を評価したもの。不均一性がなぜ標準よりも良いのか、その理解が求められます。
ArXiv
Greedy parameter optimization for diabatic quantum annealing
横磁場イジングにy軸磁場を加えることでパラメータを可変的に決定する方法。短いアニーリングによる出力から、y方向磁場項の係数符号を貪欲法で最適化。アニーリング時間が短い場合にQA, SAより優れた結果に。QAの門脇さん, 西森さんの共著。
ピックアップ理由: x磁場だけでなくy磁場を加えるとなぜか上手くいくというもの。こちらも今後の理論展開が待たれます。
ArXiv
量子力学・場の理論など
量子力学・馬の理論などのタグがついたものは86本でした。
Negative radiation pressure on an ensemble of atoms in free space
古典では輻射圧が物質に押す力を与えるが、量子力学的に扱うと不均等な遷移速度から負の輻射圧が生じることを発見。この力は光の強度・原子の数・アンサンブルの初期温度に依存。
ピックアップ理由: 言われてみれば当たり前、でもそれを示すことが難しい。まさにコロンブスの卵です。
ArXiv
Quantum Wheatstone Bridge
古典電磁気に登場するホイートストンブリッジ回路の量子版を提案。量子効果を利用したスピン鎖からなり、未知のカップリングに対して高い感度を持つ。はぁー面白そう!
ピックアップ理由: 量子ホイートストンブリッジ回路!図を見た限りでは電磁気というより量子熱力学っぽい感じですごく面白そうです。
ArXiv
An Open Quantum Systems approach to proton tunnelling in DNA
DNAの水素結合に沿って起こる陽子移動において、量子性がどの程度重要かを調査。グアニン-シトシン間で解析を行ったところ、量子トンネル効果が古典的な寄与よりも数桁大きいことが判明。現在の遺伝子変異モデルに一石を投じる結果?
ピックアップ理由: 量子力学が生物学や遺伝にまで影響していると考えると、すごくワクワクします。
ArXiv
Quantum vacuum Sagnac effect
中性ナノ粒子の高速回転により、その近傍を伝播する原子波に励起されるSagnac位相(Sagnac効果は回転する観測者から見ると時間のズレが移動経路に依存して生じるという効果)の量子電磁気学的なアナロジーについて報告した研究。
ピックアップ理由: この効果は初めて耳にしたのですが、今後も相対論的な効果が量子実験から明らかになっていくことに期待を込めてピックアップしました。
ArXiv
PoC
PoCタグがついたものは69本でした。
qRobot: A Quantum computing approach in mobile robot order picking and batching problem solver optimization
倉庫や配送センターで注文された品を拾集する際の移動距離を最小化する量子アルゴリズムを開発と、ラズパイとクラウドを用いたPoCの提案。
ピックアップ理由: ラズパイを用いた拾集機と量子コンピュータの夢のコラボレーション!今後も量子コンピュータによる物流最適化が発展していくことから選びました。
ArXiv
Experimental Quantum Embedding for Machine Learning
古典データを量子データに埋め込むことでデータ分類を効率的に行う先行研究を受けて、この方法を光/超低温原子/Rigetti超伝導量子コンピュータの3つで実証実験。このアプローチが実験レベルで上手く機能することが判明。
ピックアップ理由: 量子機械学習がちゃんと実験レベルで上手くいった例としてピックアップしました。
ArXiv
A Quantum Annealing Approach to Reduce Covid-19 Spread on College Campuses
Max-Cut問題を最適化するための量子アニーリングアルゴリズムを再帰的に適用、学生をコホートにグループ化することで大学キャンパス内で教室を共有することによるCovid-19感染可能性を最小化する手法を考案。後で論文を再現してみよう。
ピックアップ理由: QAを用いて学生をCOVID-19感染から守る!最近の流行り病に関係しているということもあり、選出しました。
ArXiv
量子実験
量子実験タグがついたものは49本でした。
Proposal for measuring Newtonian constant of gravitation at an exceptional point in an optomechanical system
ニュートンの万有引力定数Gを量子力学的に測定する手法を考案。2つのcavity, 2つのmembrane共振器を用いた系に質量のある物体を加えることでsupermodeの固有振動数がシフト、それを検出することでGを測定できるというもの。
ピックアップ理由: 万有引力定数の測定にはねじり秤などがありますが、量子力学的な検知からそれに迫る実験提案。実現を願う意味で選択しました。
ArXiv
Experimental Realization of Rabi-Hubbard Model with Trapped Ions
最大16個のトラップイオンを用いて、Rabi-Hubbard模型を実験室で実現。結合強度をゆっくりと減少させることで基底状態の量子相転移を調査。16イオンと16フォノンの系はヒルベルト空間次元数が257を超えるため、スパコンでも計算が難しい。
ピックアップ理由: 古典で計算が難しい、いわゆるアナログ量子計算。今後の量子コンピュータの性能発展次第で、これが計算される日が楽しみです。
ArXiv
On-chip black hole: Hawking radiation and curved spacetime in a superconducting quantum circuit with tunable couplers
10個の超伝導トランズモン量子ビット上でアナログブラックホールを実現。湾曲時空での準粒子の量子ウォークはホーキング放射のように振る舞うことから、アナログの事象の地平線の外側にある量子ビットを測定することでホーキング放射を検証。
ピックアップ理由: ボーズ・アインシュタイン凝縮による音響ブラックホールからのホーキング放射を捉えたという実験がありますが、これは量子ビットを用いたもの。量子技術が相対論の理解に発展をもたらす?
ArXiv
以下は工事中…今しばらくお待ちくださいm(-_-)m
量子鍵配送・量子通信・量子暗号
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ピックアップ理由: {}
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ピックアップ理由: {}
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ピックアップ理由: {}
ArXiv
ソフトウェア開発
量子コンパイラ
数学・計算量
量子ウォーク
量子センシング
量子教育・技術育成など
(量子)測定・制御
分散・並列量子計算
統計情報
以下にarXiv/quant-phの登録論文推移を示します。
近年の登録推移
量子コンピュータ・量子アルゴリズム・量子通信技術などもquantphに含まれていることもあってか、指数的にその数が増えているように見えます。
今年の月別登録推移
結言
2021年はプライベートの忙しさや体調不良などを除いて、ほぼ毎日arXiv/quant-phのabstractをチェックすることができました。もちろんここに挙げたものだけが全てではありません。私が見逃したものも含めて、もし今年発表された論文で面白いものがございましたら、お教えいただけると助かります。