Table of contents
  1. カー・ブラックホール時空を(厳密性は省いて)求める
    1. ミンコフスキー時空のボイヤー・リンキスト座標表現
    2. 測地線方程式と粒子のラグランジアン
    3. 無限遠との接続
    4. シュバルツシルト時空への接続
  2. より厳密な導出方法
  3. 参考文献

カー・ブラックホール時空を(厳密性は省いて)求める

ここでは\(z\)軸を回転軸として自転している、Kerrメトリックの導出方法について記述します。

タイトルから分かる通り、数学的な厳密性は保証されていません。ご注意ください。

ミンコフスキー時空のボイヤー・リンキスト座標表現

まずはMinkowski時空を考えます。

\[ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \tag{1}\]

これを以下のような楕円体の座標(Boyer-Lindquist座標)に変換しましょう。

\[\left\{ \begin{array}{l} x = \sqrt{r^2 + a^2} \sin \theta \cos \varphi \\ y = \sqrt{r^2 + a^2} \sin \theta \sin \varphi \\ z = r \cos \varphi \end{array} \right. \tag{2}\]

ここで\(a\)は定数です。すると

\[\left\{ \begin{array}{l} dx = \frac{r}{(r^2 + a^2)^{3/2}} \sin \theta \cos \varphi dr + (r^2 + a^2)^{1/2} \cos \theta \cos \varphi d\theta + (r^2 + a^2)^{1/2} \sin \theta (-\sin \varphi) d\varphi\\ dy = \frac{r}{(r^2 + a^2)^{3/2}} \sin \theta \sin \varphi dr + (r^2 + a^2)^{1/2} \cos \theta \sin \varphi d\theta + (r^2 + a^2)^{1/2} \sin \theta \cos \varphi d\varphi\\ dz = \cos \theta dr - r \sin \theta d\theta \end{array} \right. \tag{3}\]

これらより

\[dx^2 + dy^2 + dz^2 = \frac{\rho^2}{r^2 + a^2} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 + \rho^2 \sin^2 \theta d\varphi^2 \tag{4}\]

ここで\(\rho^2 \equiv r^2 + a^2 \cos^2 \theta\)です。(1)式と合わせると、このままでは\(g_{tt} g_{rr}=-1\)のようにならずに、見通しが悪いことがわかります(MinkowskiメトリックやSchwarzschildメトリックを参照)。よって、これをさらに以下のように変形します。

\[ds^2 = -B (cdt - a \sin^2 \theta d\varphi)^2 + C \{ (r^2 + a^2) d\varphi - a c dt\}^2 + \frac{\rho^2}{r^2 + a^2} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 \tag{5}\]

先程の議論から、\(B=\frac{r^2 + a^2}{\rho^2}\)となるように\(C\)を定めると、\(C = \frac{\sin^2 \theta}{\rho^2}\)となります。よって

\[ds^2 = - \frac{r^2 + a^2}{\rho^2} db^2 + \frac{\rho^2}{r^2 + a^2} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 + \frac{\sin^2 \theta}{\rho^2} d\phi \tag{6}\]

ここで\(db =cdt - a \sin^2 \theta d\varphi, d\phi =(r^2 + a^2) d\varphi - a c dt\)のように置換しました。

測地線方程式と粒子のラグランジアン

ここまではMinkowskiメトリックに座標変換を施しただけであって、質量\(M\)の物体による重力場を考慮してはいません。ここでSchwarzschildメトリックを思い出してみると

\[g_{tt} = - \left( 1 - \frac{2GM}{c^2 r}\right) = - \frac{r^2 - r_g r}{r^2}\]

のように考えることができます。ここで\(r_g = 2 GM/c^2\) (Schwarzschild半径)です。今、\(r\)の代わりに\(\rho\)が距離の指標であると考えると(6)式とこれとの比較から、重力の効果を含めた場合を

\[ds^2 = - \frac{f(r)}{\rho^2} db^2 + \frac{\rho^2}{f(r)} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 + \frac{\sin^2 \theta}{\rho^2} d\phi \tag{7}\]

のように書くことができます。ここで\(f(\rho)\)ではなく\(f(r)\)としているのは、ここまでの適切な座標変換によって\(g_{bb}, g_{rr}\)部分の\(\theta\)依存性は\(\rho^2\)部分に押し付けられていると考えたためです。
ここから質量\(m\)の粒子の測地線方程式を考えましょう。

\[m \frac{dp_\nu}{d\tau} = - \frac{1}{2} g_{\beta \mu, \nu} p^\mu p^\beta \tag{8}\]

ここで\(p\)は粒子の4元運動量、\(\tau\)は固有時間を表します。(8)式右辺の\(g_{\beta \mu}\)の依存性から

\[\frac{dp_b}{ d\tau} = 0 \ \Longrightarrow \ p_b = mE\]

とわかります。ここで\(E\)は単位質量あたりのエネルギーを表す定数です。よって

\[p^b = g^{b \mu} p_\mu = g^{bb} p_b = -\frac{\rho^2}{f(r)} m E\]

さらに最左辺の運動量は\(p^b = m v^b = m \dot{b}\)と考えれば

\[\dot{b} = - \frac{\rho^2}{f} E \tag{9}\]

となります。ここでドットは固有時間\(\tau\)の微分を表します。さらにLagrangianを計算すると

\[L = \frac{1}{2} g_{\alpha \beta} \dot{x}^\alpha \dot{x}^\beta = -\frac{f}{\rho^2} \dot{b}^2 + \frac{\rho^2}{2f} \dot{r}^2 \tag{10}\]

です。ここでは球対称なので\(\theta=0, d\theta=0\)として計算しました。(9), (10)式より

\[\dot{r}^2 = \frac{f}{\rho^2} (2L + \frac{\rho^2}{f} E^2) \tag{11}\]

\(L=1/2, E=0\)の粒子についてのみ考えると、この粒子においては

\[\dot{r}^2 = \frac{f}{\rho^2} \tag{12}\]

と求まります。

無限遠との接続

そして\(r\)方向の測地線方程式を考えると

\[m \frac{dp_r}{d\tau} = - \frac{1}{2} g_{rr, r} p^r p^r \tag{13}\]

です。これを計算していきましょう。

\[\frac{d}{d\tau} (\rho^2 \dot{r}) = \ddot{r} \rho^2 + 2 r \dot{r}^2\] \[\frac{df}{d\tau} = \dot{r} f'\]

と\(p^r = m \dot{r}\)より

\[(左辺) = m \frac{d}{d\tau} (g_{rr} p^r) = m^2 \frac{d}{d\tau} \left( \frac{\rho^2}{f} \dot{r} \right) = m^2 \frac{\frac{d}{d\tau} (\rho^2 \dot{r})f -\rho^2 \dot{r} \frac{df}{d\tau}}{f^2} = \frac{m^2}{f^2} (\ddot{r} \rho^2 f + 2 r \dot{r}^2 f - \rho^2 \dot{r}^2 f')\] \[(右辺) = - \frac{1}{2} \frac{\partial}{\partial r} \left( \frac{\rho^2}{f}\right) m^2 \dot{r}^2 = - \frac{2r f - \rho^2 f'}{2f^2} m^2 \dot{r}^2\]

(12)式と合わせて

\[\ddot{r} = \frac{3 \rho^2 f' - 6rf}{2\rho^4} \tag{14}\]

今、\(\theta=0\)について考えているため、\(\rho^2 = r^2 + a^2\)より

\[\ddot{r} = \frac{3 (r^2 + a^2) f' - 6rf}{2(r^2 + a^2)^2}\]

さらに\(f(r) = r^2 + a^2 - \psi (r)\)の形を仮定すると、\(f' = 2 r-\psi'\)より

\[\ddot{r} = \frac{6r \psi}{2(r^2 + a^2)^2} - \frac{3 \psi'}{2(r^2 + a^2)} \xrightarrow{r \rightarrow \infty} \frac{6\psi - 3 r \psi'}{2r^3}\]

\(r \rightarrow \infty\)の極限で加速度は0になるという境界条件から、\(\psi = 2 D r\)となります。ここで\(D\)は定数です。この結果から

\[ds^2 = - \frac{r^2 + a^2 - 2D r}{\rho^2} (cdt - a \sin^2 \theta d\varphi)^2 + \frac{\rho^2}{r^2 + a^2 - 2D r} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 + \frac{\sin^2 \theta}{\rho^2} \{ (r^2 + a^2) d\varphi - a c dt\}^2\]

シュバルツシルト時空への接続

(2)式から\(a \rightarrow 0\)の極限で、これは質量\(M\)が作る球対称な重力場、すなわちSchwarzschild時空の3次元極座標表示に一致しなければなりません。このとき\(\rho^2 = r^2\)より

\[g_{rr} = \frac{r^2}{r^2 - 2 Dr} = \frac{1}{1-\frac{r_g}{r}} \ \Longrightarrow \ D = \frac{r_g}{2} = \frac{GM}{c^2}\]

以上より

\[ds^2 = - \frac{\Delta}{\rho^2} (cdt - a \sin^2 \theta d\varphi)^2 + \frac{\rho^2}{\Delta} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 + \frac{\sin^2 \theta}{\rho^2} \{ (r^2 + a^2) d\varphi - a c dt\}^2 \tag{15}\]

と求まります。ここで\(\Delta \equiv r^2 + a^2 - r_g r\)です。さらに分解すれば

\[ds^2 = - \frac{\Delta -a^2 \sin^2 \theta}{\rho^2} c^2 dt^2 - \frac{2 a r_g r \sin^2 \theta}{\rho^2} c dt d\varphi + \frac{(r^2 + a^2)^2 -a^2 \Delta \sin^2 \theta}{\rho^2} \sin^2 \theta d\varphi^2 + \frac{\rho^2}{\Delta} dr^2 + \rho^2 d\theta^2 \tag{16}\]

のようになります。\(a\)は距離の次元ですが、自転と結びつけて考えると\(a = J/(Mc)\)となります。\(J\)はブラックホールの自転角運動量です。この定数\(a\)導出についてはゆっくり自転する低質量星が作る時空をご覧ください。

より厳密な導出方法

私には追えませんでしたが、Chandrasekharの”The mathematical Theory of Black Holes”などを参照するのが良いでしょう。

参考文献

[1] Dadhich, 2013, “A novel derivation of the rotating black hole metric”
[2] Nikolic & Pantic, 2012, “A Possible Intuitive Derivation of Kerr Metric in Orthogonal Form Based On Ellipsoidal Metric Ansatz”
[3] D’Inverno, 1992, “Introducing Einstein’s Relativity”
[4] Chandrasekhar, 1998, “The mathematical Theory of Black Holes”


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